※本稿は、姫路まさのり『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。ソーシャルファームという希望』(新潮社)の一部を再編集したものです。なお緊急事態宣言を受け、記事公開日現在、店舗は5月7日まで休業の予定です。
オープン初日から連日連夜の満員に
いよいよ迎えた2002年4月26日、オープン初日。
この日のために、職員・スタッフ全員で幾度となく研修を重ねた。準備は万端! のはず。それでも堂々巡りの不安は尽きず、想像のつく限りの、あらゆるシミュレーションを繰り返し、徹夜に徹夜がまたがり、気付けば数時間後にオープンを迎えるという明け方……ふと窓を見上げると、一日を道連れに燃え尽きた太陽入れ替わりと、朝もやの西の空に大きな満月が浮かんでいた。
京都府舞鶴市にあるフランス料理店「ほのぼの屋」の支配人・西澤心(55)はその月の光を浴びながら、これまでの日々を思った。
「みんな頑張った。できる限りの事はしたつもりだ。しかし、それでも、お客さんが来てくれるとは限らない。来てくれるのだろうか……いや、きっと来てくれる! きっとうまくいく!」
閑寂な夜空にポツンと一人ぼっちでいながら、世界中を照らすように雄大に輝く満月と、自分達とを重ね合わせるように希った。
満月への願いが通じたのか、説明会が宣伝代わりとなって、初日から連日連夜の満員、長蛇の列となった。店を開くと同時にその日の予約が埋まってしまい、行列の車に謝るのが一番の仕事になったほどだ。
常に予約は数カ月先までビッシリで「当時は何をしていたのか本当に覚えていません」と西澤は回顧する。お客さんを迎えるのにてんてこまいで、ディナーの片づけが終われば夜中の24時。翌日の段取りをして深夜2時、3時。それからまた、朝まだきに家を出てレストランへ向かう……日めくりカレンダーを二枚三枚と続けて破るように、恐ろしいほどの早さで毎日が過ぎ去っていった。