京都府舞鶴市のフランス料理店「ほのぼの屋」。体や精神などに障害を抱える人がプロのホールスタッフへと成長した背景には、彼らを指導したシェフの存在があった。障害との向き合い方について、放送作家の姫路まさのり氏が話を聞いた——。(第3回/全3回)

※本稿は、姫路まさのり『障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。ソーシャルファームという希望』(新潮社)の一部を再編集したものです。なお緊急事態宣言を受け、記事公開日現在、店舗は5月7日まで休業の予定です。

シェフが季節の野菜盛りにアスパラガスを添えようとしている
写真=iStock.com/ClarkandCompany
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開店前準備に職員は立ち会わない

多様なスタッフが共に働くほのぼの屋では、一つの決まりがある。それが、開業時から今日まで続く「開店前の店内準備に、職員が立ち会わない」というものだ。

障害がある人たちだけが、予約状況などを見ながらその日の準備を取り行なう。それは、お客様を迎え入れるという準備を、ゆったりと自分の心の中に落とし込んでいく儀式のようにさえ思える。

六田ろくた宏(35)がリーダーとなって声をかけ作業が始まる。床を拭き、テーブルを拭き、何よりこの日は、職員総出で、エントランスと駐車場の雪かきに追われるはめになった。手と頬を真っ赤に染めながら室内に戻ると、休む間もなくテーブルセッティングに取りかかる。

予約人数に応じてテーブルを配置しクロスをピンと張っていく。一輪挿しを飾り、人数分のナイフ、スプーン、フォーク、食器を丁寧に並べる。色んな角度から確認し、数ミリ単位で置き換えて整頓。テーブルとチェアの位置感覚さえも、座りやすさの歯車がカチッと、音を立ててはまるまで調整していく。