当たり前の事を続ければ、いつか特別な事として認められる

彼もまた、怒濤のような日々に揉まれる中、自身のやりがいを見つけた一人なのだ。そして、開業から10年を迎えたある日、お客様からこんな言葉を聞かされたという。

「10年も経つのに、ここのお店のグラスにはホコリ一つないね」

その言葉に対して、六田は破顔一笑した。

「お客さんの言葉が何より嬉しいんです。実際、昔より今の方が、きっちりと念入りに作業するようになっていますね。こだわり? というか、他のお店がやっている、やっていないとかではなく、ほのぼの屋ではこれが当たり前なんです。当たり前の事をずっと続ければ、ようやく当たり前じゃなくて、それが特別な事として認められるんかなぁと感じています」

ほのぼの屋の当たり前なる特別は、グラスだけでなく細部に宿る。例えば、テーブルにかけるクロスにしても同じだ。

「たまにシワがあるクロスが混じっているとよけるんです。でも、代わりが無くて、仕方無くシワがあっても敷かないといけない時があると、閉店までずっと申し訳ない気持ちが消えない。そういう所が完全に無くなれば、直接はどうかわからないけど、お客さまももっと増えてくると信じて頑張っています」

意味を見据えて働く彼らこそプロフェッショナルだ

そんな彼らの仕事ぶりを見続けて来た支配人の西澤は、こんな言葉で仕事ぶりを評価する。

「自分たちの仕事の向こうに何があるかを、その目的や、意味をも見据えて働く彼らこそ、プロフェッショナルだと誇りに感じています」

プロ意識が浸透したほのぼの屋で、誰に話を聞いても出てくるのが「お客さん」という言葉だった。六田も同様に、働く事に関して第一に捉えているのは、何よりもお客さんだと力説する。

「どんな仕事でもそうですけど、接客というと、やっぱりお客さん相手。お客様に満足してもらわないとお店が続かない。お客様に満足してもらう事、それが僕にとって、働くということです」

単純作業から脱却し、仕事の品質を上げるには、自分の仕事の重要性の認識が何より求められる。そして給料は会社からではなく、お客さんから貰っているのだという、私たちも忘れがちな心構えを教えられた気がした。

職場では兄貴分、家では3児の父

今ではそんな彼を頼りに、取材中も他のスタッフが「六田さん、ランチのテーブルどうしましょう?」「掃除機、どこ、かけときましょう?」とひっきりなしにききに来る。今や良き兄貴分となった。

「みんなで呑みにいったり、アホな話をしたりもしますよ。でも、真剣な事を伝える事もあります。ほのぼの屋は……なんだろう、自分が成長できる場かなぁ。ここで、一番成長したのは自分自身だと思います」