法改正で多大な出費を強いられる

「8店舗あったスタンドは閉鎖したり売却したりで半分の4店舗まで縮小させ、何とか生き残りを模索したのですが、業績は下げ止まらなかった。とどめは2010年の消防法改正です。地下に埋めてあるガソリンや灯油を保管するタンクの規制が強化されたんです。これが激痛でした」

設置後40~50年経過したタンクは油漏れを防ぐため内部を繊維強化プラスチックで加工するか、地下に電極を埋め込み電流を流すことでタンクの腐食を防止する対策が義務化されたのだ。これに掛かる費用が膨大な金額だった。

「スタンドの地下にはレギュラーガソリン、ハイオクガソリン、軽油、灯油と4つのタンクがあるんです。それを規制に適合するようにすると1カ所で600万円近い費用が必要なんです」

工事期間は約2週間で、この期間は営業できないから日銭が入ってこない。

「営業していた4カ所すべての工事費が約2500万円、建物もかなり古くなっていたから塗装替えもやりまして。合計すると2700万円も必要だった」

金融機関から多額の借入れをして工事費に充てたが同業他社との競争は厳しくなる一方だった。販売量は回復せず、更に原油高によるガソリン、軽油価格の上昇で客の買い控えもあり収益は一段と悪化。借入れ金はみるみるうちに膨らんでいった。

「震災があった2011年に赤字転落してしまい、その後も好転せず欠損計上が続いていました。経営再建を模索したのですが収益改善の見通しは立てられなかった」

破産処理を決めたときの負債総額は約2億円だった

赤字になると金融機関の態度が急に厳しくなる。月末には融資担当者が来て帳簿や伝票類をチェックされるし、「ここが無駄」「これはやめろ」とガンガンやられる。

2015年から借入れ金の返済が重荷になり、金融機関には一部返済猶予してもらっていたのだが「もう待てない」と最後通告を突き付けられた。そのときある銀行から言われたのは、「おたくは金融円滑法があったから生き延びてきただけ。とっくの昔に倒産していても不思議じゃないんだ」という冷徹な捨て台詞だった。

「新たな資金繰りの方策はなく、ガソリンなどの仕入れも不可能になるのは時間の問題だと思いました。これらの事情を勘案し法的に処理することを選択したわけです」

万策尽きた葛西さんが破綻処理を決意したのは2017年5月。親類の伝で紹介してもらった弁護士が処理を引き受けてくれた。

「借入れ金の総額は1億7000万円ぐらいになっていました。スタンドの土地と建物は自前のものですが、すべて銀行、信金が抵当権を設定していました」

借入れ金の他にも買掛金がいくつかあり、リース品の代金未払いもあった。従業員の社会保険料の未納分などもあり、それらをすべて合わせると負債の総額は約2億円。この他に葛西さん個人が借りた事業者ローンが約500万円。目眩がしそうな金額だ。