なぜ安倍首相は決断を先延ばしにしたのか

指数関数的に増えそうな気配を見せはじめた新型コロナの脅威を前に、国民の間では緊張感が一気に高まった。それに合わせるかのように、改定されたばかりの「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(特措法)に注目が集まった。

この法律に基づいて緊急事態宣言を発令すれば、コロナの急激な感染はある程度収まるのではないか。オーバーシュートの懸念にさらされていた国民の間には、ほのかな期待感が膨らんだ。

政府も準備を急ぐ。3月26日午後には、持ち回り閣議を開いて対策本部の設置を決める。同本部は非常事態宣言の発令に向けてさまざまな準備を行うことになっている。

緊急事態宣言を発令する条件は2つある。①国民の生命や健康に著しく重大な被害を与える恐れがある場合、②全国的かつ急速な蔓延により、国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある場合——の2つだ。

3連休明けには2つの前提条件が整ったように見えた。追い打ちをかけるように日本医師会の釜萢(かまやち)敏専務理事が30日の記者会見で、「専門家の間では、緊急事態宣言はもう発令していただいた方がいいのではないかという意見がほとんど」と催促した。

だが、安倍首相は世論の期待感に理解を示しながらも、この段になってもかたくなに慎重な姿勢を崩そうとはしなかった。政治評論家の田崎史郎氏は政府内部の動きについて、「官僚や取り巻きなど周辺は早急に宣言すべきだという雰囲気だが、官邸の中枢は逆に非常に慎重だ」とテレビでコメントしている。

立憲民主党の枝野幸男代表にいたっては、「出さない理由が私には理解できない。宣言するべきタイミングはもう越えているのではないか」(4日、朝日新聞)と、先送りする首相への批判を口にした。

「必要なら躊躇ちゅうちょなくやる」、これは安倍首相の口癖でもある。その首相は4日の参院決算委員会でも、「現時点で(宣言を)出す状況ではない」との認識を示している。さらに、「宣言が出されたとしても、フランスのような都市の封鎖はできない」と、小池知事の一連の発言を否定するかのような説明をわざわざ付け加えている。