都知事の発言に隠された大きな問題

首相と都知事の間には、外からみていると明らかに認識の違いがあった。3月23日に小池都知事は「ロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得なくなる」と強調した。この発言の真意はなんだったのだろうか。勝手な推測だが知事は一人の政治家として、事態の深刻さを都民に訴えたかったのではないだろうか。

ロックダウン発言の前には、「接待を伴う夜の飲食」の自粛も求めている。オーバーシュートが近づきつつあるという緊張した状況の中で、都民に対して「もっと真剣に対処してほしい」との危機感をあおろうとした。

それは政治家に必要な“説得力”の一つだろう。リーダーシップといってもいい。これが仮にある種のパフォーマンスだったとしても、非難される筋合いの発言ではない。

だが、この発言には大きな問題が隠されていた。現在の特措法や法体系のままでは、知事が言う大都市のロックダウンは不可能だということだ。安倍首相の答弁の方が正しいのである。

特措法にはロックダウンという言葉はどこにも書かれていない。この法律によって中国やフランス、イタリアのように、都市を物理的に封鎖することは、どんなに拡大解釈してもでもできない。

特措法は感染防止に向けた具体的な対策を都道府県知事に委ねている。柱になっているのはイベントの開催中止、小中高の休校、店舗や施設の利用や使用の停止などで、主催者や関係者に「要請すること」である。

強制力を伴うものもある。医療施設を増設するにあたって知事は、土地や建物の所有者の同意なしに建設を進めることが可能になる。また、医薬品など必要な物資の保管を命じることもできる。命令に従わないで隠匿したり、売り惜しみしたりした場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。

マスクなど必要不可欠な物資を「特定物資」に指定すれば、メーカーや輸入業者、流通業者に「売り渡し」の要請ができる。業者が拒否すれば強制的に収用することも可能だ。

しかし、JRや私鉄、バスといった交通機関を遮断するはできない。それを可能にする条文は特措法のどこにもない。交通機関を止めない限り、緊急事態宣言によって逆に無症状の感染者が高齢者が多い地方に拡散されるといった事態も起こりかねない。

緊急事態宣言を出すことに意味がないわけではない。それなりの効果もあると思う。だが特措法で新型コロナの感染の広がりが防止できるという保証は、どこにもないのである。