安倍首相がお手本にすべきシンガポール首相のメッセージ

また、シンガポールでは、2月8日、リー・シェンロン首相がスピーチという形でこんなメッセージを出した

「今日はあなた方に直接、今の状況、そして何が待ち受けているのかをお話したいと思います。われわれは17年前にSARSを経験しており、コロナウイルスに対応できるよう、しっかりと準備ができています。われわれは十分な量のマスクと個人用の保護用品を確保しており、医療施設も拡張し、改善させてきました。ウイルスについて、より高度な研究能力を実現し、医師・看護師はさらに訓練されており、心理的にも準備ができています。シンガポール人は何を予期し、どのように対応するのかを知っているのです。何より大事なのは、SARSを克服し、私たちはこの問題を乗り越えることができることをわかっていることです」

国民の不安をやわらげようと、語り口はとてもやさしく、聞き手を勇気づけるものだった。さらに、「頻繁に手を洗い、目や顔に触れないように」、「医師に相談するように」、「インスタントラーメンや缶詰、トイレットペーパーを買う必要はない」などの具体的なアドバイスをしたうえで、「団結して解決をしていきましょう。 良識ある予防策をとり、お互いに助け合い、落ち着き、私たちの生活を続けていきましょう」と結んだ。

写真=iStock.com/Praneat
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一国のリーダーが友人との会食ごっこをしている時間はない

シンガポール在住で現地の会社役員を務める日本人女性・簡 希実子さんは、こうした対応を手放しで評価した。

「旧正月のころ(1月の終わり)のずいぶん早い時点から政府(健康省)が段階的に厳しくいろいろと規定を発令したので、そろそろ収束への道が見えてくる予感がする。マスクが入手できなくなるパニックを避けるためにも対策が練られるなど、徹底的な対策がとられてきた。首相のスピーチは、国民がパニックに陥らないようにと、助け合いと一体感を呼びかけており、一連の対応は機敏で、本当に素晴らしい。あっぱれだ」

筆者は長年、コミュニケーション研究家として、安倍首相の伝え方戦略を中立の立場からウォッチし続けてきた。これまで安倍首相は、アメリカ議会での英語演説リオ五輪閉会式でのパフォーマンスなど、徹底的に「見せ方」を意識し、スピーチにはこだわりを見せてきた。

しかし、そういう「お祭り」ではそれなりに人々に訴えることができても、「国難」というここぞのときのスピーチはおざなりな印象をもつ。これは超長期政権のレイムダック(死に体)を意味しているのかもしれない。それほどまでに生気もやる気も感じられないのだ。

世界的危機の中で、一国のリーダーが友人との会食ごっこをしている時間はないはずだ。この国難には全国民が一丸となって立ち向かうしかないのだから。

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