イギリスに大量に押し寄せた移民の特徴とは

イギリスにおける移民の数は、1997年以降急速に増えた。81年に320万人だった外国生まれの移民の数は、97年には410万人となったが、2009年には690万人にまで増えている。過去30年の移民数増加のうち、4分の3が1997年以降に起きたことが分かる。

その第一波は、イラクやアフガニスタン、ソマリアでの戦争などによる1990年代後半から2000年代前半にかけての難民申請者の増加だ。この期間におけるイギリスへの難民申請者数は、世界で2番目に多くなっている。

第二波が起こったのは、2004年に八つの国がEUに加盟し、その市民にイギリスの労働市場が開放されてからだ。ポーランド共和国、ハンガリー、チェコ共和国、スロバキア共和国、スロベニア共和国、ラトビア共和国、エストニア共和国からの移民が増えた。

これら移民の特徴を見てみると、市民よりも、若くて、教育水準が低く、男性が多い傾向にある。また、2004年以降、八つの国から来た移民は、市民や他の国からの移民、難民に比べると、独身で子供がいない。市民よりも高い雇用率となっている。一方、第一波の人たちは、市民よりも失業率が高くなっている。

移民グループによって窃盗犯罪率が変わるワケ

ベルらは、2002年から09年までのデータを使い、大人の人口に占める移民の割合の変化と、人口当たりの犯罪数の変化との関係を分析している。

Bell, Fasani, and Machin(2013)Figure1より抜粋して作成。1997年から2009年のイングランドとウェールズでは、移民数が増えても、犯罪が増えていないことが分かる

彼らの分析によると、第一波の移民の増加により、窃盗犯罪(住居侵入による窃盗や自動車盗難など)は少し増えたが、2004年以降の移民流入(第二波)は、逆に窃盗犯罪を減らしていた(ただし、犯罪減少の効果はわずかだ)。いずれの移民流入も凶悪犯罪(殺人、強盗、暴行、レイプなど)とは関係なかった。

影響の程度を見てみると、第一波の移民は、窃盗犯罪を0.11%増加させたと推計される。これは、約2.7%の窃盗犯罪率のうち、4%に相当する犯罪率であり、増加自体はさほど大きいものではない。一方、第二波の移民は、窃盗犯罪を0.23%低下させたと推計されている。これは、窃盗犯罪率のうち、8%に相当する犯罪率で、こちらも大きな影響とはいえない。

では、どうして二つの移民グループで、犯罪率への影響に差が出たのだろう。それぞれのグループの特徴を見てみると、就業機会の差が原因ではないかと考えられる。