刑事裁判においては証拠能力がないとされるが…
それでは、「不正アクセス行為」によって取得した他の女性との親密なやり取りの内容は、夫に対する離婚訴訟や慰謝料請求訴訟において、不貞行為を立証するための証拠として採用されるのでしょうか。
この点、刑事裁判においては、違法な手段によって取得した証拠は、採用することはできません。そのような証拠は、「違法収集証拠」として証拠能力がないとされています(最高裁昭和53年9月7日判決)。
そのため、不正アクセス行為によって取得したSNSの内容については、刑事裁判では採用されないことになります。
一方、民事裁判では、証拠の収集方法に関して刑事裁判ほど手続きの適法性が厳格に要求されているわけではありません。
相手に無断で録音した録音テープの証拠能力が問題となった事案において、裁判所は、無断録音テープのような違法収集証拠の証拠能力については、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集されたものである場合には、証拠能力が否定されるが、そうでない場合には、原則として証拠能力を肯定することができると判断しました(東京高裁昭和52年7月15日判決)。
民事裁判では証拠として採用される可能性が高い
すなわち、民事裁判では、違法な手段によって収集された証拠であっても原則として証拠として採用されることになります。夫のIDとパスワードを利用して夫のSNSに不正アクセスする行為は、上記裁判例でいう人格権侵害を伴う方法とまではいえませんので、不正アクセス行為によって取得したSNSの内容であっても、民事裁判では証拠として採用される可能性が高いということになります。
そのため、不正アクセス行為によって取得した証拠によって、妻から夫に対する離婚請求や慰謝料請求が認められることもあるのです。
もっとも、上記のとおり、不正アクセス行為は違法行為なので、夫に被害届の提出や刑事告訴をされ、取り調べを受けたり、場合によっては逮捕されたりする恐れもあります。
また、夫から妻に対して、スマホの中身を勝手に見られたことがプライバシーの侵害にあたるとして、慰謝料請求の訴訟を起こされるというリスクもあります。
夫に対する離婚請求や慰謝料請求が認められたとしても、不正アクセス禁止法違反の容疑で取り調べを受けたり、夫から慰謝料請求の訴訟を起こされたりする、というリスクがありますから、たとえ夫のスマホの内容が気になったとしても、その中をのぞき見るという行為は控えたほうがいいでしょう。