健康食品の過剰摂取で死に至ることも
吉岡は続けてこう話す。
「患者さんは、そういう不確かなものを頼りたくなるほど不安なのです。私としては、なぜそれを試したいと思ったのかひとまず気持ちを聞く。その上で現状で改善できる点を探っていくようにしています。その後、どのような結論を出すのかは患者さんにお任せします。今の治療が一番なんですね、と納得して帰ることもあります」
がんを宣告された患者、そして家族の心情は揺れ動くものだ。だからこそ、安易に言い切ることはしない。良心的な医療従事者の一つの選択である。
一方、がんに対する免疫療法のように生死に直接関わらない、いや、関わらないと思われているからこそ大胆な宣伝広告を打っているのが、健康食品である。
矢野経済研究所の『2018年版健康食品の市場実態と展望』によると健康食品の市場は緩やかな右肩上がりを続けており、2017年には1.2兆円に膨れ上がった。健康食品メーカーはテレビを始めとしたメディアの大口スポンサーでもある。テレビを付ければ健康食品のCMを毎日のように見かける。
とりだい病院も健康食品、サプリメントの過剰摂取により他の医療機関から紹介、あるいは緊急搬送されてくる患者がいるという。
鳥取大学医学部附属病院薬剤部の島田美樹部長は複数の健康食品を長期的に使用する場合、特に注意を払う必要があると警告する。
「たとえば、ダイエット食品。痩せる効果を期待して一種類ではなくいくつかの製品を同時に摂る。これは、ある成分を重複してしまうことになります。さらに長期間に亘って摂り続けると肝臓の細胞が死に始め、ひどい場合は劇症肝炎から死に至ることもあります」
簡単に手を出しやすい健康食品も、実は生死に関わるのだ。
天然成分が身体にいいとは限らない
また、よかれと思って摂取した健康食品が身体に知らず知らずのうちに害を与えることもある。
「例えば沖縄県は長寿県で、みんな○○を含む食品を食べて健康だとされると、その食品の成分を抽出したものが健康食品として出回るわけです。しかし、長生きで健康なのは、バランスのよい食事のなかで適度にそうした成分を摂っているからです。その成分が凝縮された製品を日々ずっと摂り続けると、本来ならば肝臓で代謝されて体外に排出されるはずのものが蓄積していきます。肝臓の働きが追いつかない。結果的に肝臓に負担を掛けてしまうことになります」
天然成分という謳い文句も注意が必要だ。
島田によると、人間を含めた生物は、外来異物に対する適応能力を持つという。島田が学生の講義でよく使うのは、煙草の葉に生息する芋虫の話だ。
「最初、芋虫はニコチンを含む煙草の葉を食べた時、ニコチン中毒を起こしてぐったりしてしまう。しかし、これを食べないと生き残っていけないとなると、芋虫の体内にニコチンを解毒する酵素が増えてくるのです。人間も同じです。天然成分だから安心、食品として使われているものだから大丈夫というわけではない。ある程度の量までは適応できるが、それ以上になると体内に蓄積される、あるいは一気に摂ると適応できないという天然成分もあるのです」