圧倒的な人の多さが拓く新たな可能性
しかし、中国は日本や欧州諸国と違い、別の意味で大きな可能性を秘めている。中国を訪問してまず驚くのは、その圧倒的な人の多さである。あれだけ徹底的に数が多いと、少々問題があったとしても、それを乗り越えるパワーを感じる。
例えば、中国が強いIT技術において今後大きな比重を占めるのがビッグデータである。ビッグデータでは多ければ多いほど成果が大きいと考えられ、中国の巨大さで欧米の技術的優位性をあっという間にひっくり返す可能性がある。
企業買収に伴う技術の移転にも注意する必要がある。2016年8月、中国企業がドイツの最先端ロボットメーカーKUKAを買収した。KUKAは老舗機械メーカーであり、ドイツが進めているインダストリー4.0の中核企業である。KUKA買収のようなことが頻繁に発生するのであれば、中国国内だけで技術レベルを判断すると見誤る可能性がある。
日中科学技術協力が日本を救う
中国と日本の科学技術の現状を見ると、研究資金や人材などの物量で日本は中国に到底かなわない状況となっている。さらに中国は、米国を中心として優れた国際的な協力ネットワークを築いているので、日本との協力は必ずしも必要ないと考えている恐れもある。
しかし、現在のところオリジナリティやイノベーションの経験で、日本に一日の長があり、地理的にも欧米と比較して極めて近いことから、日本の対応次第では中国が日本との協力を有意義と考える可能性もあると筆者は思っている。
一方、現在の日本にとって、かつてのライバルは米国と欧州であったが、バブルの崩壊と中国の経済発展により状況が一変した。もし日本が、科学技術において一国主義的な政策を取り続けるのであれば、日本は体力を徐々に消耗し、気が付けば何の取り柄もない辺境の科学技術中進国になってしまう恐れが強い。
日本は中国との科学技術協力を積極的に実施すべきである。日本の科学技術関係者は、これまで長く中国を科学技術の発展途上国として見てきたため、対等の日中協力には抵抗があると思われる。一方、中国は共産党の一党支配の国であり、科学技術の協力も政治的な影響を受けやすい。
しかし、このままではじり貧となり、日本の科学技術に展望は無い。科学技術協力の強化・促進を、政治経済全般での協力の突破口とする気概を持って努力すべきと考えている。