論文数や特許数で圧倒的な中国であるが、これが本当に中国の科学技術力を表しているだろうか。科学技術振興機構(JST)は日本の専門家による科学技術力の国際比較を実施しており、2019年7月の最新の調査結果を4つの専門分野で大くくりに比較したのが図表3である。

これを見ると、中国は今回比較対象となった全ての分野で日本とほぼ拮抗している。筆者は50年近く科学技術振興に携わっているが、つい最近までライバルと考えていたのは米国や欧州の主要国であり、中国は眼中になかった。状況は激変したのである。

日本の専門家による国際比較

研究開発費は日本の14分の1から1.4倍に急増

どうして中国はこのように急激な科学技術の発展を遂げたのであろうか。

まず挙げなくてはならないのは、豊富な研究開発資金である。図表4は、2000年と2016年の主要国の研究開発費の絶対値(IMFレートによる円換算)と増加倍率を示したものである。2000年では米国の30分の1、日本の14分の1程度であった中国の研究開発費であるが、2016年では2000年比約21倍となって世界第2位となり、米国の半分近くとなっている。

研究開発費の増大に伴い、中国のトップレベル研究室には、欧米や日本の研究室以上の実験機器、分析機器などがずらりと並んでいる。欧米や日本と比べ過去のしがらみがなく、思い切って世界最先端のものが導入できる。また自前の技術や製品へのこだわりがなく、国際的に最新鋭の機器導入を躊躇ちゅうちょしない。さらに、巨額の費用が必要な大型加速器や天文台などの施設も次々と建設され、中国の科学技術レベルのかさ上げにつながっている。

各国研究開発費とその増加倍率

発展に多大に貢献した「海亀」政策

もう一つ、何といっても、中国の科学技術上の強みは、科学技術人材にある。経済発展前の2000年以前は、人材を雇う資金が乏しかったため、研究者のポストが圧倒的に少なかった。また、文化大革命の後遺症から経験がある研究者が極めて少なかった。2000年代に入り急激に中国の研究者数が増大を始める。

図表5に示したように、2000年で70万人前後と日本と同等であった研究者数が、2016年現在で約169万人を数え、米国の約138万人(2015年)、日本の約85万人を抜いて世界一となっている。欧州諸国と比較しても、EU28カ国全体の研究者数である約189万人と同等に近い。