実は、平田牧場の主要販路は、大手スーパーではなく、組合員数約40万人の「生活クラブ生協」だ。食品添加物や残留農薬にも厳しい基準を持つ、同生協の組合員(家庭の主婦が中心)に長年鍛えられており、「無添加ポークウインナー」は40年以上前から販売する。東京都世田谷区内には生協の直営店もあり、平牧の豚肉を買うことができる。

提供=平田牧場
同社の人気メニュー「平田牧場金華豚 厚切りロースかつ膳」

先代が不安視した「米作」が、豚の品質を支えている

生活クラブとの連携で始めた活動のひとつに「米育ち豚」がある。

山形県遊佐町や酒田市などの休耕田で栽培した米(飼料用米)を、豚のエサ(飼料)に混ぜて食べさせる。エサに飼料用米が占める割合と、食べて育った豚肉の味わいのバランスが大切で、現在は約30~35%の配合に伸びた。以前、生活クラブの組合員を取材した際は「(肉の味わいが)最初は少し水っぽい気がしたけど、今はおいしくなったわね」という本音も聞いてきた。

「飼料用米で育てた豚の脂身には、オレイン酸が多く含まれていて甘みとうまみがあり、リノール酸が少ないことから脂の酸化を抑制する効果もあるといいます。世界のブランド豚を見ても、スペインの『イベリコ豚』はドングリを、イタリアの『パルマ豚』はホエー(乳清)を飼料とするように、その地方の産物を飼料に使うのは珍しくありません」(新田氏)

課題は単独栽培だけでは採算が合わず、国の補助金の後押しがないと成り立たないことだ。補助金の減額(当時)や東日本大震災による田んぼの被害など、一時的な停滞はあったが、飼料用米の作付面積は2018年に2156ヘクタール・集荷量1万1204トンまで拡大した。豚1頭当たりのエサに占める量もスタート時の4倍近くになったという。

「休耕田を耕作放棄地にせず、水田を守りたい。それによって日本の食料自給率を上げたいというのは長年考え、何度も挑戦してきたが、採算が合わず断念してきた。1997年に補助金が認可されたのを機に再チャレンジしたのです」と話す新田氏。

歴史の視点では、父が将来性を不安視した「庄内のコメ」が形を変えて会社を支えたことになる。庄内の食糧米も進化し、レストランでは山形県産「つや姫」が提供されている。

大手外食チェーンとは違ったアプローチ法

養豚業は農業のひとつだが、大手外食チェーンが農業を営むケースはある。例えば国内店舗数で1500店を超える「サイゼリヤ」は、店で提供するレタスを自社の「サイゼリヤ農場」で育てる。開発当初は、大玉でたくさん提供でき、食感がよくて味のあるレタスは世の中に存在せず、種の品種改良から始めたという。

居酒屋「和民」「坐和民」などを展開するワタミグループも「ワタミファーム」を中心に有機栽培の農業を推進している。