卒業後も考えて東洋大を選ぶ選手が増えた
日々の観察で選手たちの性格を把握することも、アドバイスを送るうえで大切です。「頑張れ」と言うより「大丈夫だよ」と励ます方が良い選手がいれば、「何をやっているんだ!」と檄を飛ばした方が燃える選手もいますが、たいていは「今日はいいよ」とか「いけるぞ」などといった、安心感を持たせるような言葉が多くなります。
近年では、「卒業後に実業団で競技を続けたいから東洋大を選んだ」「東洋大の攻めの走りが好きだ」など、明確なビジョンを掲げて入ってくる選手が増えました。多くのOBが実業団で頑張っているおかげだと思いますし、うれしい限りです。
勤務地から決定する場合もあります。地方出身者の場合は、地元の実業団を希望する場合もあります。実業団側も地元出身の選手に声を掛けることが多くなります。競技を引退したあと、そのまま社業に専念しようと思えば、地元に戻る傾向にあります。
大学卒業後に実業団に入社する場合は走ることが業務でも、学ぼうとする意欲を持つことが求められます。競技を続けている間に、同期入社の社員はどんどん仕事を覚えていきます。競技を引退した後、年下の社員に仕事を教えてもらうことになるかもしれないし、一から仕事を覚えなくてはならないかもしれない。そういう覚悟を持ったうえで、競技に取り組んでいかなくてはなりません。
ニューイヤー駅伝でOBに鼓舞される
私としては、どの実業団チームに進んでも長く競技を続けてほしいと願っています。実業団は大学のように一から十まで教える場ではないので、自分自身で責任を持って、トレーニング内容を吟味して、自己管理をします。それらができる人材、実業団で活躍できる選手を輩出することは、今の東洋大の指導理念の1つになっています。
大学時代に基本を徹底し、心と体の基礎基盤を固めること。これができないと、社業も競技もうまくいきません。
毎年、ニューイヤー駅伝は、翌日からの箱根駅伝の戦いに備えた選手たちが、練習の合間にみんなでテレビ観戦するのが恒例です。どの区間にもOBが走っていて、特にエース区間の4区で、先輩たちがそれぞれ異なるユニフォームで先頭争いをしている様子を見ると、「すごい! 俺らも頑張ろう」という声が聞かれます。
近年の箱根駅伝で上位を維持できているのは、間違いなく、前日に先輩たちの走りから心にメッセージを受け取っているからです。
箱根駅伝のあとには、逆にOBから「後輩たちの走りに感動しました」「頑張ろう、負けてはいられないと思いました」といった、たくさんのメッセージをもらいます。
世代は違っても、「東洋らしい走り」は確実にあります。そこでつながった鉄紺色の絆が、これからも途絶えることのないように見守っていきたいです。