そういい続けられるのは、「新規セールスには必ず、半年に1~2回の波が訪れる」という体験を自ら積んでいるからだ。相談需要が発生する、その瞬間の波動は愚直に訪問し続けていれば誰でもキャッチできると鈴木さんは確信している。だから、それを体感できる瞬間まで、部下を支え、ときに厳しく指導し続ける。
金融危機が日本を襲い、貸し手にとっても借り手にとってもさらに厳しい状況が予想される今、鈴木さんは決して、その基本的なスタンスを崩さない。
今年、鈴木さん率いる青山支店の営業部隊は、新規獲得キャンペーンで、前期全国1位の座に輝いた。しかも、ぶっちぎりのトップである。
「本当にこの仕事をやってきてよかったと思いましたね。僕の力だけじゃなく、みんなで達成したことですから……」
少しはにかみながらそう語る鈴木さん。取引先で成約にこぎつけたら、その会社を出たところで部下と握手をすることにしているという。部下の手を強く握るたび、かつて上司とともに祝杯をあげた若き日の自分が得た喜びと自信を、立場を変えて部下に与えている。
そして今、鈴木さんが、ともに歩んでゆく喜びを噛み締めているのは職場だけではない。別居から1年余り、激務の陰でばらばらになりかけていた家族が、ようやく鈴木さんのもとに戻ってきていた。
小学校3年生と4年生になった子供を久しぶりに肩車した。
「こんなに成長したのか――」
その重さに驚いた。以前、こんなふうに抱き上げたのはいつ頃だったのか、確かな記憶はない。だが今は違う。あのがむしゃらな働き方を改めた鈴木さんは、走り続けた日々の中で一度は失いかけた何より大切なものの重みを、少しほろ苦い思い出とともに今、噛み締めている。