微信は実質的に、フェイスブックとインスタグラム、ツイッター、ジンガ(ソーシャルゲーム)を1つにまとめたものとなった。単なるメッセージアプリとして存在するのではなく、なくてはならないモバイルツールとなったのだ。診察の予約、病院の支払い、警察調書の記入、レストランの予約、銀行サービスの利用、テレビ会議の開催、ゲームなど、多くのことに欠かせない。

この怪物級のアプリの成長は、自力だけでは実現できない。微信はグーグルやフェイスブック以上に自社のユーザーにクリエイティブになることを求める。微信のプラットフォーム上の新たなサービスを彼らに開発してもらう必要があるからだ。

オフィシャル・アカウントで企業と客を結ぶ

2012年に、微信の17人の社員が、企業をターゲットとした「オフィシャル・アカウント」という新たなコンセプトの実験を行った。その時点で、微信はすでに消費者からは強い支持を得ていた。

しかし、チームはオープンなアプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)を使って、微信を外部企業の製品やサービスのための、コミュニケーションの経路にしたいと考えていた。

単純化して言えば、APIとは2つのソフトウェア間での情報交換を可能にするための規則やガイドラインだ。ソフトウェアのプログラムやプロトコル、ツールによって、サードパーティは微信の巨大なユーザーベースを活用することができる。

微信のオープン・プラットフォーム部門のバイス・ゼネラルマネジャーであるレイク・ヅァンは次のように説明した。

「これまで、微信は人々をつなげるのに成功してきた。しかし、企業が微信を使ってどのように顧客とコミュニケーションをとれるかについては、よく見えていなかった。この目標を達成するための手段として、『オフィシャル・アカウント』がうってつけだと考えた」。

「オープンな接続」が企業を引き付ける

最初のうちは誰もどんなサービスを提供するべきか自信がなかった。エンジニアたちが有望なアイデアを探していると、招商銀行がそこに加わった。

ヅァンによると、招商銀行とのプロジェクトの目標はシンプルだった。それは、顧客が望むことなら何でもするということだ。

「当時、オフィシャル・アカウントについてのアイデアは非常に初期的なもので、デモも数えるほどしかなかった。わたしたちが考えていたのは、企業は顧客にメッセージやクーポンを送り、宣伝をするだろうということだった。初期のアイデアはすべて『同報通信』の機能を中心に考えられていた。しかし、招商銀行が加わったことで、わたしたちの考え方は変わった」
「銀行はデータセキュリティに厳しい基準を設けており、データを自社のサーバーに保存しておかなければならない。その状況では、わたしたちはオープンな接続を提供する必要があった。そのときから、わたしたちは微信を『連結器』や『パイプ』の役割に転換させた。企業が微信上で、自社のサーバーから情報を消費者に送れるようにしたのだ」