重層的多角的な安保体制を考える必要がある

アメリカが自由世界の指導者としての旗を降ろし、大統領が「自分は自分で護れ」と喧伝しているときにまで日本は従来通りアメリカに安保を依存していくのか、またそうできると考えるべきなのか。早晩無理が来るだろう。

私はアメリカ一辺倒を離れ、重層的多角的な安保体制を考えるべきだと思う。まず、日本が核保有をするハードルはきわめて高く、やはりアメリカの核の傘に依存するべきなのだろう。しかし在日米軍については沖縄と現状のような政治的対立を続けたまま安保体制を維持するのは現実的ではない。嘉手納基地などを残しできるだけスリムな体制とするべく有事来援の体制を含め抜本的な整理・統合・縮小を米側と検討すべきだろう。

自衛隊については安保新法制の下での習熟訓練を重ね、効率的な自衛隊を目指すとともに、豪州、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、欧州との安全保障パートナーシップの強化に努めるべきだろう。同時に周辺諸国との安保環境を改善していくための外交を機能させねばならない。

そして究極的には、日米が相互に防衛義務を持つ相互安全保障条約に条約改正をおこなうべきなのだろう。その場合には集団的自衛権の全面的行使を可能とする憲法解釈をおこなわなければならないし、場合によっては憲法改正も必要となるのだろう。ただそのような行動をいま起こすべきとは思わない。その前に十分な議論を尽くすべきだ。

“見えない戦争”に巻き込まれる日本

少なくともこれからの世界においてもしばらくは、アメリカが圧倒的な力を持ち続けることは疑いようがない。日本は引き続きアメリカとの関係強化に努めていかなければならないが、果たして現在のような“抱きつき作戦”のままでよいとも思われない。安倍総理がトランプ大統領と懇親を深めるのは結構なことであるが、それ自体が目的ではないだろうし、アメリカにどう影響力を行使できるかが重要だ。

田中均『見えない戦争 インビジブルウォー』(中公新書ラクレ)

このままアメリカがリーダーシップをとらない世界、秩序を失い、さまざまな問題が解決しない世界が訪れることは、アメリカはもちろん日本や他の世界各国にとっても望ましいとは言えない。日本は西側先進民主主義国のなかでもアメリカの首脳に影響を与えることができる数少ない存在だ。アメリカがリーダーシップをとらない場合、国際社会の秩序はどのように保たれうるか。日本はその秩序のなかにアメリカを巻き込み、リーダーシップ不在の世界にならないようにと真剣に考え、影響力を行使していくべきだろう。

だが、日本がいまそういった方向に向かっているかと言えば、残念ながらそうは思えない。日本もまた“見えない戦争(インビジブルウォー)”の真っただ中に巻き込まれている。いたずらに「主張する外交」や「ジャパン・ファースト」を唱える人々の声が大きく、“世界のなかの日本”であることは忘れられつつあるように思える。トランプほどわかりやすくなくとも、トランプ的な人物が日本でも登場することもあるだろう。そのときに賢明な選択ができるか。国民の知性が試されるときは、それほど遠い未来ではないだろう。

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