本人同意なしの「一掃」は避けるべき

ゴミ屋敷問題については、さまざまな専門家がチームとなって対応することが必要不可欠です。また、“一掃”する場合は、専門家以外にも、清掃会社やオーガナイザー、ボランティアや家族、友人など多くの人たちの協力が必要です。

このようにモノをためこんでしまう背景には、生活の困窮や孤独感、家族間での葛藤などの心理的側面だけでなく、脳機能の影響も考えられます。また別の精神疾患との併存の可能性も含まれるため、勝手に一掃することは避けるべきであり、本人の同意のもとに行われることが不可欠になります。

この記事を読まれた方は、ためこみ症と診断されるほどの状態ではないにしろ、「モノを処分できない」「ついモノをためこんでしまう」と悩んでいるご本人だけでなく、大切なご家族や友人、知人がためこみ状態で苦しんでいる、またためこみ状態を援助する立場の方なども多いかもしれません。

周囲の人たちが今のその状態、状況だけを見ると、「困った状態」「だらしない」「わがままで他の人の言うことに耳を貸さない」「片づける能力がない」などとレッテルを貼ってしまいがちです。

あるいは何とかしてあげたいけれど、何もできないことがつらく、イラ立ちを覚える人もいるかもしれません。今の状態を改善しようと本人に何か指摘すれば、ケンカになったり言い争いになったりすることもあります。

ためこみの背景には「正当な理由」がある

家族や友人など周囲の人たちが何かをしてあげたいと思う気持ちは、その人を大切に思ってのことですし、愛情に基づくかかわりでしょう。

五十嵐透子『片づけられないのは「ためこみ症」のせいだった!?』(青春出版社)

しかし、それだけではためこんでいる人たちを適切に理解していることにはなりません。ためこみ行動やためこみ症では、「ためこみ」は今あらわれている現象に過ぎません。モノであふれている状態は、「普通の人たち」から見ればなかなかインパクトの強いものです。ですから「それらをなくしてしまえば、(本人が)変わるかもしれない」と期待もしてしまいがちです。

しかし、周囲の人たちが目の前の積み上げられた「モノ」を処分するだけでは、何の解決にもならないどころか、事態を悪化させてしまうだけだということは、強くお伝えしておきたい点です。

何らかの思いやネガティブな感情に対処する方法の1つとして用いているためこみ行動を、別の対処行動に変える、片づけたり処分するなどの新しい行動を学び習慣化する、あるいはためこむ背景にあることを解決していかないと、目の前のモノをなくしても同じことが繰り返されますし、その状態はさらにひどくなるかもしれないのです。

ここまでお話ししてきたように、モノをためこむ背景には、さまざまな要素が絡んでいます。

ためこんでしまう人からすれば、モノをためこむことで不安を紛らわしていたり、自分の記憶をつなぎ止めようとしたりするなど、その方にとっての「正当な」理由があるのです。本人も周囲の人たちも、そうしたところにまで目を向けていくことが大切です。

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