専門家ですら診断が難しい

ためこみ症が精神疾患として確立したのは、前述したように2013年ですから、まだ10年も経っていません。ですから専門家の間でさえ認知度は高くありません。その名称だけ聞くと、大変誤解を受けやすいものです。

単にモノが捨てられないこと=ためこみ症と思われがちですが、実際にはためこみ症かどうかの判断がつきにくいことは多々あります。

ここは厳密には非常にわかりにくく複雑な話なのですが、例えばうつ病や注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)などにもためこみ症と重複する症状があります。これらの疾患でみられる「ためこみ状態」は、「ためこみ行動」と呼ばれ、ためこみ症とは区別されています。つまりためこみ行動は、うつ病や注意欠如・多動症など、それぞれの主疾患に伴う状態であり、ためこみ症ではありません。

2つの病気が併存している場合や、主疾患の症状に関連してみられる場合もあり、その判断も容易ではありません。ですから専門家でも診断が難しいのです。

「ためこみ症」と「ためこみ行動」は違う

ためこみ症という疾患なのか、ためこみ症ではないけれども、モノがたまってしまう状態(ためこみ行動)なのか、その診断は非常に難しいと述べましたが、ここでは、具体的な例を挙げて、ためこみ症とそうでない場合の違いを説明しましょう。

うつ病と診断されたお姉さんがいる女性から聞いたケースです。

お姉さんはご実家で旦那さんとお子さん、実母であるお母さんと同居していました。妹さんはもう独立しているのですが、実家に帰ると、妹さんの部屋として使っていたところが、物置のようになっていたそうです。妹さんが帰省するときは、旦那さんであるお義兄さんがかなりのモノを移動させて、何とか寝泊まりできるようにしてくれていました。

しかし、それだけではありませんでした。キッチンの食器棚には食器があふれ、お母さんの生活スペースにまでお姉さんの所有しているモノが置かれていました。ダイニングテーブルの上にもモノがたくさんあり、それをよけて食事をするような状態だったのです。これは、うつ病や抑うつ状態にある方によくみられる状態です。うつ病あるいは抑うつ状態のために、エネルギーが低下し、1つのことに集中しにくく、やる気も出ない、何をするにも億劫になってしまうのです。自分でも望ましい状態ではないとわかっていても、片づけや整理整頓ができないのです。

この例は精神疾患であるためこみ症とは区別され、主疾患(ここではうつ病)に伴う症状です(うつ病の場合は、必ずしも「ためこみ行動」とはいえないこともあります)。