モノを捨てられず、「ゴミ屋敷」をつくってしまう人は、どこに問題があるのか。上越教育大学大学院の五十嵐透子教授は「モノをためこむことは、今現れている現象にすぎない。背景には、何らかの思いやネガティブな感情がある。本人も周囲の人も、そこまで目を向けることが必要だ」という――。

※本稿は、五十嵐透子『片づけられないのは「ためこみ症」のせいだった!?』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

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大量にモノをためこむ精神疾患「ためこみ症」

あなたのまわりに、モノを捨てられない、モノを片づけられない、モノをためこんでしまう人はいないでしょうか。あるいはあなた自身が、「そのような傾向がある」と自覚しているかもしれません。

今のその状態は、単に「片づけが苦手な人」「なんでもとっておく人」というわけではない可能性があります。モノを捨てられなかったり、ためこんでしまう人のなかには、「ためこみ症」という“こころの病”が隠れている場合があるのです。

ためこみ症とは、ほとんどの人にとって聞き慣れない言葉でしょう。

ためこみ症は、2013年のアメリカ精神医学会の診断基準「DSM―5」で病気の1つとして、新たに加わりました。ひとことで言えば、その名の通り、大量にモノをためこむ精神疾患です。脳の特定の部位が特有の働き方をする生物学的側面だけでなく、心理面と社会面も影響し合っている複雑な状態です。

以前は強迫症の症状の1つとして考えられていましたが、強迫症の人すべてにみられる症状ではないこと、また強迫症ではない人にもみられることから、単独の精神疾患として位置づけられました。

私自身がためこみ症とかかわるようになったきっかけも、強迫症の患者さんでした。

私は強迫症を専門にしていたのですが、ある患者さんに心理療法を行っても効果がみられなかったのです。この患者さんにどう対応すればいいのか、少しでも役に立てる方法はないかと模索していたとき、アメリカで話題になった本を紹介してもらい、ためこみ症について知りました。

ためこみ症は正しく理解し、適切に接しないと、患者さんを誤った方向に導くことになります。そうならないために、私は専門書を翻訳したり、いろいろと調べたりして、勉強するようになったという経緯があります。