「足音がひびいて困ります」と苦情の紙キレ

入居してしばらくがたった2011年2月の頭、会社に向かおうとマンションのドアを開けた瞬間、なにかがハラリと落ちた。ん? 紙キレ?

“いつも足音がひびいて困ります。少し、少し気付かって歩いて下さい”

はぁ? なんだこりゃ。まるでウチがドタバタ歩いてるから迷惑してるってな調子で書いてあるじゃん。これを入れたのは同じマンションの人間なんだろうけど、部屋番号が書いていない。いったいどこのどいつだ?

写真提供=鉄人社
階下の住人が苦情を書いた紙。マンションのドアに挟まれていた

嫁の真由美が言う。「下の階の人じゃない? ちょっと前に引っ越してきた」

そうか、たしか先週、引っ越し業者が荷物を運んでたな。タイミングからしてそいつに違いない。まったく挨拶もなかったくせにいきなり苦情かよ。

「昨日は特別うるさくしてないよな?」「うん、いつもどおりだよ」

オレだって深夜0時ごろに帰ってきてすぐに寝ただけだ。こんな紙キレを挟まれる筋合いはない。文句でも言ってやろう。階段をおりたオレは、問題の部屋のチャイムを鳴らした。すぐに「は~い」とおばちゃんの声が聞こえてドアが開く。

まだ立てないのに「夜中にお子さんが走ってるでしょ?」

「508号室のタテベです。こんなモノが挟まってたんだけど、お宅ですか?」
「ああ、そう、そうなんですよ」
「別にうるさくしたおぼえはないんですけどね」
「うーん。でもときどきお子さんが走り回ってるでしょ?」
「は?」
「だから夜中とか、お子さんが走ってるでしょ? それが迷惑なんですよ」

…なに言ってんの? ウチの子供はまだ4カ月だから走り回ったりできないんですけど。そう説明すると、おばちゃんは大げさに驚いてみせた。

「ええ?? だって小走りみたいにドンドンドンって…」
「いつですか? 昨日の夜中ですか?」
「ええ、昨日もそうよ。お昼にも聞こえるし」

まったく、どんだけ神経過敏なおばちゃんなんだ。ウチは普通に歩いてるだけだっての。

とりあえず注意しますと伝えて退散したが、どうにも納得がいかない。もしかして犬のレオか? でもあんなに小さな犬が走ったところで下まで響くわけがないよな。

外食で一家不在にしていたのにまたもや……

数日後、家族全員で「くら寿司」に食いに出かけて戻ってくると、またもやドアに紙が挟まれていた。この前、突き返した紙キレじゃないか。アイツ、やっぱイカれてんのか? 下へ降り、おばちゃんの部屋のチャイムを押す。

「あの、タテベですけど」
「はいはい、タテベさんね。本当にやめてくださいよ。親戚のお子さんでも来てるんですか?」
「来てませんよ。うるさかったのはいつのことですか?」
「さっきですよ、ちょっと前。お願いだから少し注意してくださいよ」