さっきだって? そんなハズないだろ。たった今まで、みんなでくら寿司で食ってたんだから。
「あのですね、ウチらいま帰ってきたとこなの。いい加減なことばっかり言わないでくれますか」
ついつい語気を荒げてしまったことでババアは黙ってしまった。やべ、言い過ぎたか。
「じゃあ誰がドンドン走りまわってるのよ! 真上なんだからアナタたちしかいないでしょ!」
ええ?、逆ギレ? もう頭にきた。
「じゃあ中に入れてくださいよ。どこから音が聞こえるのか知りたいんで」
「ええ、どうぞ」
ババアは部屋の奥に向かい、和室の天井を指差した。この上は、よく遊びにやってくる義母昌子の寝起きしてる部屋だ。
音の出どころは、心中現場だった
「このへんよ」
「今は静かですよね」
オレは携帯を取り出して、真由美に電話した。
「いま下の部屋にいるんだけど、少し音を立てて歩いてみてよ」
「どのへん?」
「いちばん奥だな。お義母さんの部屋」
「え? わかった」
音など聞こえてこない。
「真由美、ちょっと走ってみて」
直後、天井からほんのかすかにトントンと音がした。耳を澄ませないと聞こえないほどだ。
「こんな音ですか?」
「違うわよ、もっとドンドンって」
「真由美、ジャンプしてくれ、何回も」
それでもまだトントンとしか鳴らない。わかったか、ババア、あんたの耳がおかしいんだよ!
しかしババアは聞く耳をもたない。
「いい加減にしないと不動産屋さんに言って注意してもらいますから」
腑におちないまま508号室に戻ったそのとき、初めてオレは思い出した。そうだ、あの天井の真上は心中部屋だった。
ここ最近、家族のしょーもない不幸ばかりだったのに、あのババアが越してきたせいで、また摩訶不思議なオカルトがぶりかえしてしまった。ここで死んだ家族たちは、階下に何をアピールしているんだ…。(続く)