夫婦と小学生の子ども2人が一家心中した

我ながら名案だ。ただし嫁は納得しないだろうから、真意は伏せておかねば。オレはごく自然に新居探しを提案し、「お前妊娠してるから、オレが探すよ」と、単独で不動産屋巡りを開始した。希望地は嫁の実家、埼玉県春日部市近辺だ。

家族3人で住むとなると最低でも2LDKは欲しい。家賃は半分補助してもらえるので10万円ぐらいまでか。以上の条件を満たす、春日部近辺のワケ有り物件は3つに絞られた。

①住人が駐車場で殺害された3LDK
②20代男性会社員が自殺した2LDK
③一家心中があった4DK

当連載の主旨から考えると、①の物件は少し違うように思う。亡くなった方には失礼だが、突発的な殺人なので部屋自体に対する“怨念”みたいなものはなさそうだからだ。

②と③は「その部屋で人間が無念を残して死んだ」点で共通している。ならば広い方の③にしたいところだ。③の物件に関して、不動産屋はこう説明した。

「夫婦と小学生の子供が2人、一家心中したんですよ。理由はわからないんですがね」
「……。それはどのくらい前の話なんですか?」
「1年半くらいですかね。それからは誰も住んでません」

オートロック、日当たりよし、不気味な感じもない

かなりおっかない。4人分の怨念が詰まっているなんて、豊島マンションどころの騒ぎではないんじゃないか。ただ、家賃は5万2千円とかなり安い。半分出してもらえば2万6千円で4DKに住めることになる。ちなみに他の同タイプの部屋は7万5千円だそうだ。

一家心中。でも4DKで2万6千円。オレの腹は決まった。

翌週、一家心中の件は内緒にして、嫁の真由美を連れて内見に向かった。春日部駅から徒歩7分、現れたのはキレイで巨大なマンションだ。マンション名、「春日部コート(仮名)」、ぜんぶでおよそ80世帯の大規模マンションだ。

「スゴーイ! いい感じだね」

写真提供=鉄人社
一家4人が心中した春日部コート(仮称)の間取り図

真由美が耳打ちをしてくる。確かに外観はキレイだ。オートロックなので防犯も安心だろう。目当ての508号室に入ると、中はキレイに片付いており、すぐにでも住める状態になっていた。

「ね、ここに決めよ? 寝室はここで、子供部屋はあっちにして…」

日当たりもいいし、不気味な感じはどこにもない。よし、ここに決めよう。

こうしてオレは1年3カ月住んだ豊島マンションを出て、一家心中があったさらにヤバそうな事故物件に住むことにしたのである。