ヨーロッパをないがしろにしたツケが回ってきた

しかし、トランプ政権が「有志連合」の旗を振っても、1991年の湾岸戦争でアメリカが率いたそれのようには進まない。91年の有志連合が、イラクとの「戦争目的」だったのに対して、今回の連合が「艦船護衛」でしかないのに、こうも手間取るのはなぜか。おそらくそれは、トランプ政権がヨーロッパの同盟国をないがしろにしてきたツケだろう。

トランプ政権のアメリカ第一主義は、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱に見られるような国際協調を嫌いNATO(北大西洋条約機構)を「時代遅れ」と難じた。さらに、イラン核合意については、オバマ前政権時代の合意をチャラにして再交渉に持ち込む算段だ。すでに昨年5月、イランと米英仏露中プラス独「5+1」が結んだ核合意を一方的に破棄したのだからヨーロッパ勢が怒らないわけがない。

アメリカとは「特別な関係」だったイギリスは独自に、「ヨーロッパ主導の船舶保護」を提起して、独自の路線を築こうとした。しかし、EU(欧州連合)離脱派のボリス・ジョンソン首相に対する対英不信から、少しも前に進まない。その結果、ジョンソン政権は米英関係を修復して「有志連合」への参加を明確にしたのだ。

ドイツは7月末に不参加を表明して、あくまで外交による解決を目指す構えだ。ドイツ外相は「重要なのは軍事より外交だ」と参加を見送り、フランスは国防相が「緊張を高めるようなフランス軍派遣は行わない」と参加に否定的だ。8月25日にフランスで開催のビアリッツG7(主要国首脳会議)の主催国として、この問題を具体的に詰めることになろう。

息をひそめて凝視する全体主義国家

アメリカ主導の「有志連合」が足踏みしているうちに、ロシアがイランにペルシャ湾内の合同軍事演習を持ち掛けて揺さぶり始めた。ここに至って、ペルシャ湾をめぐる多国間の遠心力ばかりが目立ち始めた。

日本にとって最悪のパターンは、偶発的な衝突からホルムズ海峡が封鎖され、中東に戦火が広がることだ。そうなれば、日本にとって“産業の血”であるエネルギー供給が絶たれ、日本と日本人の国民生活は存立の危機に陥りかねない。全国10カ所に輸入量の90日分を保管する石油備蓄基地からの放出も考えられ、さらに民間の備蓄分を含めると何とか半年間は耐えられることができるかもしれない。

しかも、アメリカ軍とイラン軍が正面から衝突する事態は、過去の経験則からいって、アジア太平洋のアメリカ軍基地は、おそらくガラ空きになるだろう。そうした軍事衝突を「戦略的好機」と考える全体主義国家が息をひそめて凝視しているのだ。