海外展開の足がかりにうってつけの場だった

会場で展示されたのは、制作中のゲームのコマやボード類、加えてプレゼンテーション用として、ゲーム内のロボットの1mに迫る大型モデルや、コマの設計データを3Dプリンターで大きく出力したスタチュー、ゲームのストーリーボードなど。ゲームであるにもかかわらず立体物の展示にボリュームが割かれたのは、ホビーメーカーであるマックスファクトリーの持ち味と、造形イベントであるワンフェス上海の特性がかみ合った結果だろう。

プレゼン用に大きく出力された「ドラゴンギアス」のスタチュー

「ドラゴンギアス」が日本のホビーイベントではなく、ワンフェス上海で発表された意味は大きい。このゲームは、日本国内では通常販売を予定しているが、海外での販売に向けてはクラウドファンディングによる資金調達を計画している。つまり、海外のミニチュアゲームファン向けに資金を募るためのプロモーションを仕掛ける必要があるのだ。そして、そのための場として、ホビー市場が急成長を続けている中国がうってつけだったのである。

さらにいえば、すでにある程度の歴史と文脈を背負ってしまっている日本のホビーシーンでは、「ミニチュアゲーム」というなじみのない商材が入り込む余地が少ない。店舗の売り場は整備されておらず、プラモデルやフィギュアのファンからも「どうせゲームのコマでしょ」と、自分たちに関係のないものとして扱われがちなのが現状だ。

しかし、中国でのホビーをめぐる環境は、まだ日本ほど確立されておらず流動的だ。前述のように中国では模型やフィギュアといった趣味自体がまだ国内で広まり始めてから日が浅く、ジャンルごとの住み分けがまだ進んでいない。マーケット全体が発展途上にあるため、ミニチュアゲームのような「プラモデル的側面もあるが、ゲームでもある」という商材でも受け入れられる素地があるだろう。

日本のホビーメーカーが新規事業を立ち上げる際に、世界に向けたインパクトが大きく、成長の余地も大きい中国市場を足がかりにする――そんな現状を象徴するのが、この「ドラゴンギアス」の発表だったのだ。

各社各様のアプローチが問われる局面

今後、ワンフェス上海と中国のホビーマーケットは急速に成熟が進むだろう。前回来場した関係者からは、会場内の展示物が有力IPに集中する傾向がすでにかなり進んだという意見も聞かれた。しかし、高速で発展するマーケットがすぐ隣にある状況は、日本のホビーメーカーにとって大きな魅力であることは間違いない。

国内の市場では受け入れられにくい商材を持ち込んでプロモーションするのか、はたまた現地子会社と協力して中国人向けの商品開発に力を入れるのか。日中のホビー業界の関係は、盗作や海賊版を揶揄したり訴えたりする段階ではなく、すでに各社各様のアプローチが問われる状況に入っている。ワンフェス上海は、それを象徴するイベントと言えるだろう。

しげる
ライター/編集者
1987年生まれ。模型誌編集者として勤務の後、現在フリー。専門はおもちゃ・プラモデルや映画など。ウェブサイト「ねとらぼ」などに寄稿。
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