年に1度開かれる「全社員が集う会」

実際に、長濱氏は「従業員450人の今より300人弱だったころのほうが、互いの顔が見えて、コミュニケーションがよくとれていたかもしれない」と言います。規模が大きくなると、組織が細分化されるので、コミュニケーションの溝ができやすいのです。

日研工作所代表取締役社長 長濱明治氏●1958年、大分県生まれ。82年京都大学法学部卒業、野村証券入社。91年日研工作所入社。2006年取締役、14年代表取締役専務、同年12月より現職。

実は日研は、社内のコミュニケーションやチームワークを、とても大切にしている会社です。先代の語録をまとめ、同社の社風を表した「日研ハーモニー」にもそれが記されています。

「自分が担当している部分は知っていても、結果がどうなのかを知らないというケースは多いですよね。そこで、小さな部品を担当している社員を集めて、完成品がどんなお客様にどう使われているかを説明する機会を設けるようにしています」

また、年に1度、全国の営業所の社員を本社に集めて「全社員が集う会」を開いています。本社工場の社員との交流と、工場の取り組みを実際に見て仕事に生かしてもらうのが目的で、どちらにも好評だそうです。

ホームページに記された「日研ハーモニー」には、「人がハード・ソフトの上に立つ」という興味深い項もありますが、同社の人材育成では、先代は「躾」をまず一番に挙げていたといいます。現在もそれを踏襲し、「躾のあるなしが、企業のトータルパワーの違い」として表れるとしています。

技術の伝承においても、それに先んじて人間力が大切だと考えられているのです。技術力を誇る日本の企業であればこその重要な視点で、トヨタなど他の大手企業とも共通しています。

一方、IT革命により、生産の現場のみならず、あらゆるものが自動化されようとする今、長濱氏は日研が製造する工作機械周辺機器の今後を次のように見ています。

「IoT(Internet of Things)の進歩で、機械とその周辺機器がつながった全体の『系(システム)』という考え方が強まります。工作機械においても、それを盛り上げる周辺機器は今後さらに多彩になり、それらを巻き込んだ全体の系としての工作機械の役割がどんどん大きくなっていくと思います」

社会がどれほど進化しても、モノづくりの世界が廃れることはありません。そして、その精神は普遍性を持ちうるものです。同社のグローバル企業としての活躍に期待がかかります。

▼生産即研究のポイント:社員の躾とチームワークの徹底を、地道に追求する

会社概要【日研工作所】
●本社所在地:大阪府大東市南新田
●資本金:13億3150万円
●売上高:(非公開)
●従業員数:450名(2018年1月現在)
●創業:1952年(旧松本鉄工所)
●沿革:1958年、有限会社日研工作所設立。60年株式会社化。64年東京営業所開設。81年日研フランス(PROCOMO)開設
●事業内容:工作機械用保持工具、ツーリング・CNC円テーブルおよび切削工具の製造・販売
森下 正
明治大学政治経済学部専任教授 経済学科長
1965年、埼玉県生まれ。89年明治大学政治経済学部卒業。94年同大学院政治経済学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得・退学。2005年専任教授。著書に『空洞化する都市型製造業集積の未来―革新的中小企業経営に学ぶ―』ほか。
(構成=高橋盛男 撮影=水野真澄)
関連記事
"時代遅れ"の浅草の老舗パンに行列のワケ
堀江貴文「日本人はムダな仕事をしすぎ」
エース社員も"35まで"に辞めるべき理由
トヨタ社長の"終身雇用発言"で透けた本音
"好きなことを仕事に"が大抵失敗する背景