「なぜ、自分を分かってくれないのか」

「なぜ、僕のことを分かってくれないのか?」

例えば、相手に苛立った時、相手を苛立たせた時、孤独を感じた時、真意が伝わらず誤解されたと感じた時。願いは一つ。もっと本当の自分を理解して欲しい。これは、人間に組み込まれた誰もが持つ自己の承認に対する欲求であり、ホモ・サピエンスが作り出した生きるエネルギーの源でもある。その結果、この欲求は良くも悪くも我々の社会システムの中に組み込まれている。

例えば、「本当の自分を分かってほしい」という願いが叶った瞬間、恋人同士に愛が育まれたり、仲間同士に絆が生まれたり、組織内に信頼と忠誠心が芽生えたりする。他者から己を理解してもらうことが、いかに大きなパワーを生み出しているかを、経験的に誰もが知っているはずだ。一方で、この欲求が常に満たされるわけではなく、時に「なぜ、自分を分かってくれないのか?」と疑問と不満が沸き起こることも知っているだろう。

私を悩ませるこの二つの問いは、多くの方々にも共通するのではないだろうか。「本当の自分」を自らが知ることと、「本当の自分」を他者に知ってもらうこと。前者は自己と向き合う内なる問いで、後者は外側に向けた問いである。いずれも「本当の自分」を理解することを目指しているが、コックニーの青年のように、自己は他者によって変化することを考えれば、内なる自分を理解するためにも、自分を取り巻く他者を正しく理解することが不可欠だ。自己の理解と他者の理解は、切っても切り離せない関係であり、非常に難解且つチャレンジングな私の人生のテーマとなった。

根底から「自己認識」の大切さを紐解く本

しかし、この「自分を知る」というテーマ、これまであまり陽の目を見ることがなかった。それよりも、結果や成果、勝利や戦略、スキルやナレッジといったわかりやすいテーマがいつも注目を浴びていた。ついつい「答え」や「重要なもの」は自分の外側にあると考えてしまうのだ。

そこで出会ったのが、本書だ。単なる一過性のスキル・ノウハウ本ではない。根底から自己認識の大切さを紐解き、誰もが一生をかけて、本気で向き合っていかなければならない自己を知るためのガイドラインとなっている。この本に「正解」を求めるというよりも、読み進めていくうちに、次の問いに少しずつ自分の言葉で答えられるようになっていくことの方が大切だ。

そもそも、自己認識とは一体何なのか?
自己認識が高いとどのようなメリットがあるのか?
自己認識を高めるには、どうすればよいのか?
いま、なぜ、自己認識が重要なのか?

著書のターシャ・ユーリックは、さまざまなエピソードを交えながら、自己認識の定義を示し、意義を解き、方法論を紹介する。要約すると、自己認識とは自分自身を明確に理解する力で、二つの側面で構成されている。一つは自分の観点から自分自身を理解する「内的自己認識」、もう一つは他者の視点から自分自身を理解する「外的自己認識」だ。