セクハラ、性暴力、性差別が起こる根本原因

「性に関する教育は、早いほうがいいんです」

国家教育省で小学校での性教育政策を担当する、ローランス・コミュナルさんは言う。

「子どもはもう幼稚園時代から、『体には性差がある』と知っています。大人と子ども、男女が違うというのは、家族や同級生を見れば分かることですからね」

若年層からの性教育は、そんな子どもたちの現実に即して考えられたそうだ。

「幼い彼らの日常にも、年上のきょうだいやインターネットなどの情報源は存在しています。そこから不適切な情報に触れてしまう前に、健全な意識を培い、正しい情報を与えるべきなんです。そうすれば性に目覚める思春期には、自分の体を守りつつ、相手の体を傷つけない意識を持てるようになる。その意識に欠けた成人は、他者の体を傷つけたり、自分の身を守らない危険な性行為をしたりしてしまいます。セクハラや性暴力、性差別の言動も、この『自他の体の尊重』が不足しているから起こるんです」

「体の尊重」の意識が社会的に共有されているフランスでは、保護者たちも性教育の重要性を理解している。ただ一部には日本のように、「性教育=セックスに関する教育」と誤解して、声を荒らげる層もあるそうだ。「幸いにして、そういう誤解をしている人たちは少数派です。声の大きいのが厄介ですが!」と、コミュナルさんは苦笑いする。そのため小学校では特に、教員や保護者へ「この教育をする意義」を周知することを重視しているという。

性犯罪の基準が、日本より厳しいフランス

フランスがここまで「性に関する教育」を重視するのは、それが必要だから、というシビアな現実がある。未成年への性犯罪は年間2万件近くにも上り(2016年)、若年者の性感染症や中絶も後を絶たない。同性婚は法制化されているが、同性愛者差別の言動は存在し続け、カップル間のDVも依然、社会問題だ。

特筆すべきはそれらの問題への対策として、国が性教育を「国家戦略」と重要視していること。それを国民が違和感なく受け入れるだけ、「あなたの体は、あなたのもの」という考え方が一般的であることだ。

そしてフランスでは、性加害への目が厳しい。セクハラは犯罪として刑法で定められ、2年以下の拘禁もしくは3万ユーロ(約363万円)以下の罰金に処される。性的暴行罪の規定も、日本より厳しい。体に対する意識が強いため、「性犯罪」と定義される行為の幅も広く、そう扱われる事件の件数もまた、日本より多くなっているのだ。この点は、国際NGO団体「ヒューマン・ライツ・ナウ」が今年発表した「性犯罪に対する処罰10カ国調査研究」や、国立国会図書館報告書「フランスにおける性犯罪防止対策強化」に詳しく説明されている。