親子が一緒に入浴することも少ない

その視点で改めて見直すと、フランス社会では「体」を守ることに対する強い意識が、日本とは違う形で通底している。その根本にあるのは、「あなたの体は、あなたのもの」という体の独立性、尊厳とでも言うべきものだ。

分かりやすい例に、避妊・中絶に対する考え方と実態がある。主流は女性側が行う医学的手段(ピル、パッチ、子宮内器具など)で、その費用は国の医療保険で65%カバーされている。中絶に関する医療行為は、100%保険の払い戻し対象だ。アフターピルは薬局で購入でき、未成年者には無料配布される。妊娠出産の当事者は女性で、「女性の体は女性のもの」だから、するかしないかを決める権利も、必然的に女性にある。国はその権利を認め、制度や保険で支援するとの考え方だ。

体の独立性を重視する習慣は、親子関係でも見られる。フランスの家庭では親子が一緒に入浴することは少なく、早い段階から、親は子どもの体を洗わなくなる。

「私の娘は3歳から、自分で体を洗わせているわね。特に胸や性器付近は触らない。ママ洗って、と言われても、『そこはあなたの体の大事な場所だから、ママでも触っちゃいけないの』ってね。親でも触らない場所なんだから、他人はもっとダメ、と理解できるでしょう?」

そう話すのは、次男と同じクラスの女の子のお母さんだ。フランスは浴室の構造が日本と異なり、基本的に定員1名の作りになっているため、親と子どもが一緒に風呂に入る機会自体が少ないこともある。風呂の介助も服を着たまま行うので、親が子どもの前で丸裸になり、胸や性器を見せることもまれだ。

「自分と他者を尊重すること」を学ぶ

そして最大の例が、前回の記事でも紹介した、小学校から国を挙げて行われる「性に関する教育」だ。フランス政府は、国民が「自他の体を尊重すること」がさまざまな社会問題の改善につながるとし、性教育を小学校から高校までの義務学習としている。つまり性教育を「生殖について教える授業」を超えたものと定義し、国家戦略として行っているのだ。それは国家教育の最重要法典である教育法典(Code de l’éducation, L312-16)にも明記されている。

その狙いは、小学校での教育に最も顕著に表れている。生徒たちが第二次性徴前であることを前提に、「性行為に直接的に言及しない」「授業内容は年齢に即したものとする」と明言しつつ、以下の9ポイントが定められている。

――身体について学び、それを尊重すること
――自分と他者の尊重
――プライバシーの概念およびプライベートの尊重
――安全であること、保護されることへの権利
――身体の違い(大人と子ども、男女)
――(思春期の到来に合わせ)体の発達を言語化して認識する
――生物の再生産
――男女児童間の平等
――性に関する・性を用いた暴力の予防

(出典:「性に関する教育、初等および第二教育課程での授業について」2018年9月12日国家教育省通達2018-111番より筆者訳)

自分や同級生は生物として「体」を持っている。それは男女に違いがあっても平等であり、暴力から保護され、安全に尊重されるべきものである……小学校でまずこの意識を培ってから、第二次性徴に突入する、という流れが作られているのだ。

具体的には、国語や音楽で男女平等をテーマにした教材を使う、体育の授業で自他の体を傷つけないよう指導する、などがある。