性教育を「秘め事」にして目をふさいだ日本

国際比較の資料を紹介したところで、日本である。「あなたの体は、あなたのものである」と言われてピンとくる人は、どれだけいるだろうか。

前回の記事でも触れたが、日本では性をセックスという生殖行為に矮小化する傾向が強い。だから成人として必要な性教育ですら、「秘め事」と隠したがる。そうして目をふさいだ結果か、体の尊厳への意識もずっと曖昧だ。

そんな日本のあり方は、フランスの「あなたの体は、あなたのもの」の視点を借りてみると、より明らかに感じられる。

痴漢は今も交通機関の日常茶飯事だが、加害者は被害者の体をどう考えているのだろう。「他者の尊重すべき体だ」と捉えているなら、同意なく手を触れることはないはずだ。テレビをつければ他者の容姿を「いじる」話芸が展開されているが、それは他者の体を「貶めてもよいもの」と考えていなければできない言動である。

「ブラック企業」や「組体操」も根本は同じ

昨今話題になっている、アフターピルのアクセス拡大に関する厚労省審議もその一例だろう。もし「女性の体は女性のもの」と考えていれば、その一生を左右する妊娠に、より安全で負担の少ない選択肢を与えたいと願うのが自然な流れである。しかし審議会はなかなかアクセスのハードルを下げようとはせず、おまけにその会の顔ぶれは、圧倒的男性多数だ。女性の体を尊重し保護する政策に、なぜ彼らはそこまで難色を示すだろうか? 彼らは女性の体を、「あなたのものとして尊重している」と、言い切れるだろうか。

例はまだまだ他にもある。従業員の体を酷使するブラック企業、児童の身体を危険にさらす組体操なども、この視点から眺めれば、疑問しか抱けない現象だ。

日本とフランスは文化も歴史も異なる国で、フランスの制度・習慣のすべてが、日本にいいこととは限らない。しかし、発想の異なる事例や制度は時に、社会問題を別の切り口から考えるきっかけになる。そして性と体に関しては、フランスがもたらす問いかけが、日本の問題に対して新しい視点を開いてくれるように、筆者には思える。

読者にはぜひ一度、以下の問いを発してみてほしい。「あなたの体は、あなたのものとして、尊重されていますか?」「あなたは目の前の人の体を、その人のものとして、尊重していますか?」と。

髙崎 順子(たかさき・じゅんこ)
ライター
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
【関連記事】
山口真帆を追い出した"AKB商法"の行く末
バブル世代は、なぜセクハラの元凶なのか
昭和セクハラ職場が男にとっても辛いワケ
セクハラ男性を即黙らせる3つの殺し文句
無差別殺傷を引き起こす絶望的孤独の正体