訴訟社会を乗り切る法律力アップの方法

その点で男性ビジネスマンが戦々恐々としているのが、冒頭でも触れた痴漢に間違われること。女子高生に痴漢行為をしたとして強制わいせつ罪に問われた大学教授に対して最高裁は09年4月、二審の実刑判決を破棄して無罪を言い渡した。客観的な証拠が乏しく、被害者の供述が唯一ということが多い痴漢事件について、「疑わしきは被告人の利益に」という推定無罪の徹底を求めたもので、溜飲を下げた人も多いはずだ。

とはいうものの、逮捕されて裁判ともなれば時間がかかる。

痴漢に間違われたら、「話し合えばわかる」などと考えてはいけない。自分の身元を示す名刺などを相手に渡し、「何かあれば、ここに連絡してほしい」と言って、早くその場から立ち去る。すると、相手も落ち着きをとり戻す時間がもて、提訴という最悪の事態にまで至らない可能性が高くなるのだ。

トラブルは決して他人事ではない。秋葉原の歩行者天国で起きた殺傷事件、赤の他人に突然ホームから線路に突き落とされて殺されてしまう事件など、被害者は「まさか自分が……」と思っていたはず。変に正義漢ぶって自らトラブルの仲裁に入るようなことも慎みたい。過剰防衛で罪を犯したり、逆恨みされてケガを負わされることだってある。残される家族のことを考えて、ぐっと我慢しよう。

08年9月のリーマン・ショックを契機に、規制強化の動きに弾みがついている。今後は、法律、政省令などさまざまな法規の見直しが行われ、私たちの生活に一層縛りをかけてくるようになるだろう。

そうしたなかで行政サイドとの軋轢も生まれてくることが考えられる。しかし私たちは、自ら提訴しないと自分の権利の実現は図れない。明らかに行政サイドのほうが有利なわけで、私はそうしたリスクを「提訴リスク」と呼んでいる。

そんなリスクの大きい訴訟社会を乗り切っていくために必要不可欠なものが、「一人ひとりの法律力」だ。どのような法律があり、どうした行為が法に反するのかを理解する。そして、どんな新しい法律が生まれ、改正されていくかに敏感になる。そうした日々の努力が、法律力をアップする一番の近道なのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=伊藤博之)