「箸の持ち方」すら忘れた地銀トップたち

ところが、地銀経営者の姿勢はその後も変わらなかった。新聞報道でも、「単独で存続できるビジネスモデルを構築するか、合併も選択肢とするのか。真剣に考えている頭取が少ない」という金融庁幹部のコメントが掲載されている。長年、「箸の上げ下ろし」まで口出しされ、それに従うことが「経営」だと思っている地銀トップは、「箸の持ち方」すら忘れてしまったかのようだ。

「このままでは10年後に当行は存在しませんと口にはするが、ではどうやって現状を打破するかを考えるトップはほとんどいない」と地銀の相談に乗ってきた大手法律事務所の弁護士は語る。

数年前のこと。地方銀行が資金を出し、共同の資産運用会社を作ってはどうか、という提案をした元外資系運用会社幹部がいた。預金を集めてそれを企業や個人に貸し出すという伝統的な「貸金業務」は、カネあまりや企業の資金需要の低下などによって収益を生まなくなっていた。一方で、銀行の資金を独自に運用する力も弱く、唯々諾々と国債を保有している地方銀行が圧倒的に多かった。共同の資産運用会社を作り、各地方銀行から運用に当たる人材を出向させることで、運用のプロを育てようと考えたのだ。

「何もやらない」ことに胸を張る

このもくろみには金融庁も賛成し、側面支援していたが、問題は地方銀行の経営者たちが「決断」できなかったことだった。「どこの銀行のトップに会っても、ところで他行さんはどうされますか、と聞かれるばかりだった」と仕掛け人氏は憤る。地方銀行のトップからすれば、下手にリスクを負って新しいことをやって失敗すれば責任を問われるが、何もせずにジリ貧になっていく分には誰からも責められない。そんな姿勢がありありだった、という。

実際、リスクを取ってチャレンジした銀行が不祥事を起こし、トップが辞任に追い込まれるケースが相次いでいる。スルガ銀行はかつて、日本銀行がトップを招いて講演会を開くなど、改革モデルとしてもてはやされていた。それが融資資料の組織的な偽造などが発覚、経営トップが組織を追われる事態に発展した。かねてから積極的な営業を行っている銀行ほど、無理がたたるのか、不祥事を引き起こしてきた。そんなことも「何もやらないほうが良い」というムードを生んでいる。

資産運用にしても、「うちは国債だけを持ち続けて、株式など他のものに手を出さなかったからやけどをしなかった」と胸を張る地方銀行トップが実際にいる。