独自に運営する「ヘアカットの学校」の中身
QBが値上げに踏み切った理由は、従業員の待遇改善と、採用・育成の強化にある。理美容業界は平均年収が300万円台と低水準にあり、離職率も高い。同社は業界内ではまだ離職率が低い方だが、今回の待遇改善によって、さらなる離職率低下を目指す考えだ。
離職率が下がれば、スキルのある従業員が育ち、オペレーションの効率化につながる。それにより、多くの顧客にサービスを提供したり、新たな店舗を出店したりすることが可能になる。結果として、売り上げの拡大が期待できるというわけだ。
また、独自にヘアカットの学校を運営しているのも同社の特徴だ。この学校で、理美容業界での経験がない人の教育や、ライセンスを持っていながら業界を離れていた理美容師の再教育を行って、雇用につなげている。
特に注目に値するのが後者の取り組みで、理美容業界ではライセンスを持ちながら同業界から離れている人が7割に及ぶといわれており、そういった人材を再教育して雇用できれば、教育コストやスキルなどの面で多くのメリットがある。
現在、同社の新規出店ペースは年率5%ほどで、外食産業などに比べれば低い。しかし、アルバイトに頼ることのできない業種であることを考えれば、地に足が着いたペースと言える。今回の値上げによって離職を防ぐなど、学校を新しく作って採用ペースを上げることができれば、さらに出店ペースを高めることが可能になるだろう。これは非常に堅実な方針で、私個人としても高く評価している。
カットの質が高いから海外でも強い
QBハウスは関東に300店舗強が集中しているのに対し、西日本は100店舗程度とまだ手薄だ。もともと東京でスタートした企業であるためこの偏りは当然だが、西日本にはそれだけ出店の余地が残っているともいえる。スキルのある従業員を安定的に確保できるようになれば、いよいよ西日本での出店が加速するだろう。
新たな収益の柱として、海外展開が好調であることも同社の強みといえる。すでに香港、シンガポール、台湾、ニューヨークなど、海外で合計100店舗以上を出店している。そればかりか、香港では業界1位につけ、2018年に進出したニューヨークでは、1店舗当たりの利用者数が日本の店舗平均とほぼ同じだ。しかも価格を物価に合わせて日本の倍に設定しているため、2倍の売り上げを記録しているのだ。
こうした成功を支えているのは、同社のサービスのクオリティにほかならない。海外には理美容師のライセンス制度がないため、サービスのクオリティは千差万別だ。そのためQBハウスの一定品質のサービスは、他店との大きな差別化要素になっている。
今後も台湾をはじめ、シカゴやサンフランシスコなどアジア人が多い地域なら、現在の勝ちパターンを生かして成功する可能性は高い。中国でも、深圳(しんせん)など香港に近いエリアには展開の余地があるだろう。