米国の脅威となってきた「IT先端分野」での台頭
もう一つ、貿易戦争にはIT先端分野を中心とする米中の"覇権国争い"という側面がある。これは長期的な変化だ。
中国は、世界第2位の経済大国に成長した。現在の中国は投資依存型経済の、成長の限界に直面している。中国は、IT先端分野の競争力を高め、需要を創出したい。それが、中国が海外企業からの技術の吸収(技術移転)と、政府補助金の支給を通した産業育成を重視する理由だ。中国がこの考えを改めるとは考えづらい。
IT先端分野を中心とする中国の台頭は、米国には脅威だ。IT分野は今後の世界経済の成長に無視できない影響を与える。IT先端分野の技術力向上は、中国の軍事力の強化にも欠かせない。
トランプ大統領の貿易交渉チームを率いるライトハイザー通商代表部(USTR)代表は、中国は安全保障上の脅威と考えている。同氏は、1980年代の日米半導体協議において、わが国に関税をかけることで"日の丸半導体"の躍進を封じ込んだ。その成功体験に基づき、米国は、第3弾の制裁関税率の引き上げ(10%から25%)と第4弾の制裁関税の準備を表明し、中国に譲歩を迫った。
中国は、対米交渉を長期戦に持ち込み、自国有利の展開へ
中国は、米国の求めに応じることはできない。中国は共産党主導で経済の改革を進め、IT先端分野を中心に覇権を強化したい。
昨年12月、米中は首脳会談を開催し、貿易戦争を"休戦"すると発表した。中国は貿易不均衡の解消のために、米国から農産、工業品などを購入した。見方を変えると、中国にとって、米国の要請に応じて米国製の製品などを購入することは、難しいことではない。
しかし、覇権争いとなると、そうはいかない。中国は、中華思想の考えに基づき、自らを中心とした多国間の経済連携を進めたい。IT先端技術の高度化は、5G通信網やIoTの導入を通して、中国の需要取り込みに不可欠だ。
中国は、覇権強化への取り組みを加速させたい。同時に、経済への影響を抑えるために、米国との全面対立は避けなければならない。休戦表明により、中国は時間をかけて対米交渉を進め、自らに有利な状況を得ようとした。その考えに基づき、2月、中国は、知的財産保護と市場開放に関する協定書の作成に応じつつ、世論対策のために時間がほしいと米国に求めた。中国は、対米交渉を長期戦に持ち込み、自国有利の展開に持ち込もうとしたのだ。