中国の交渉責任者は「必ず報復する」と表明
5月9日と10日の米中の通商協議は合意に至らなかった。米国の政府関係者は協議が建設的だったとしたものの、企業に対する政府の補助金支給などについて両者の溝を埋めることはできなかった。また、米中は協議を継続するとしているが、その日程すら決められなかった。それに伴い、米国は対中国の関税率25%への引き上げを実行すると表明している。
それに対して、中国の交渉責任者を務める劉鶴副首相は「必ず報復する」と表明した。この発言は、米中の協議がいかに困難かを物語っている。両国間の溝は一段と深まったといえるかもしれない(※)。
※編集部注:中国は、5月13日21時30分(日本時間)、対米輸入額600億ドル(約6兆6000億円)分の関税を最大25%に上げる報復措置を発表した。6月1日から実施する。
今後、中国からの対抗措置等を受け、米国は一段と対中強硬姿勢を強める可能性がある。民主党には、トランプ政権以上に中国が脅威と主張する議員も多い。中国としても習近平国家主席の支配基盤強化などを考えると安易な妥協はできない。今後の交渉の行方は一段と読みにくくなった。今後の状況次第では、制裁関税の発動から中国経済が一段と減速することが懸念される。それは、わが国をはじめ世界経済にとって大きなリスクだ。
2つの視点で考える米中貿易戦争
米国と中国の貿易戦争は、2つに分けて考えるとわかりやすい。
まず、米国は、中国との貿易赤字を減らしたい。トランプ大統領は、米国の鉄鋼や石炭、農業などの"オールドエコノミー"の復興を重視し、支持獲得につなげたい。そのためには、米国の輸出を増やすことが重要だ。
2018年、米国の貿易赤字は約6200億ドルだった。モノ(財)の取引に限定すると、貿易赤字は8900億ドルに達する。米国の対中輸出入は、モノの輸出は約1200億ドル。一方、モノの輸入は5400億ドルある。
米国は、4200億ドル程度の対中貿易赤字を減らしたい。そのために昨年7月以降、米国は中国からの輸入品に25%の制裁関税を段階的にかけ、貿易赤字の削減を目指した。中国は米国から大豆などを輸入し、譲歩してきた。