実体経済にマイナスの影響が及ぶ可能性は高まった

米中の交渉が事実上決裂し、長期化の様相を呈したことは、世界経済にとって軽視できないリスクだ。もし、米国が第4弾の対中制裁関税を発動すると、中国経済はかなりの痛手を被る。IMFは米国が残りすべての中国からの輸入製品に関税をかけた場合、中国のGDP成長率は1.5ポイント程度低下すると試算している。

交渉が決裂した中で、米中が互いに歩み寄る展開は見込みづらい。両国がにらみ合いを続けるのであれば、徐々に先行きへの緊迫感が高まり、世界全体で企業や市場参加者がリスクを取りづらくなる。特に、中国経済の先行き懸念は高まるはずだ。それは、中国の需要を取り込んで景気が持ちなおしてきたドイツやわが国、アジアなどの新興国の減速リスクを追加的に高めるだろう。

交渉が決裂した後、短時間で協議を進め、溝を埋めることは口で言うほど容易なことではない。米中の協議の動向によっては、世界的に金融市場が混乱し、実体経済にマイナスの影響が及ぶ可能性は高まったと考える。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(写真=時事通信フォト)
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