屋号変更したニュー山田うどんは新規店・既存店も好調

もちろん、これまで山田うどんを支えてきてくれたガテン系の男性客は、山田がどんな店なのか知っている。が、来たことのない客にはいまひとつ伝わりにくいのではないか。いや、ちょっと待て。男性客のことばかり考えてきたけれど、バラエティに富むメニュー構成はファミリー層にも受け入れてもらえるのでは……。

人気メニュー「はまぐりうどん」「彩り野菜と若鶏の黒酢あん」(撮影=北尾トロ、写真提供=山田食品産業)

「屋号を変更したのは、そういったファミリーや女性の方でも、しっかりと食事を楽しめる場所と認識してもらえるようにするためです」(山田社長)

僕はこれを聞いて唸ったのだ。腹ペコ野郎たちに安くてボリュームたっぷりの食事を提供してきた山田うどんが、とうとう普通の考え方を取り入れたのである。うどん屋から食堂へ。男だらけの世界から女性やファミリーが気軽に入っていける世界へ。これがニュー山田の目指すところなのだ。

しかし、うまくいくのだろうか。

2018年中に新規出店したのは4店舗。僕も開店早々に行ってみたが、その時点では外観こそ様変わりしたもののメニューは一切変わっていなかった。あれから半年ほどが過ぎたいま、どうなっているのだろう。状況を知るべく本社へ伺い、営業企画部の江橋丈広さんに「正直どうなんですか」と質問してみた。

「心配もありましたが、おかげさまで順調に推移しています。新規出店が目新しいのは当然ですから、ある程度の数字は予想していたんですが、屋号変更の効果が大きいのは、むしろ既存店なんです。新規出店をどんどん成功させるには、いい立地であることが条件になりますよね。でも、いい場所ってそんなにあるものじゃない。新規となると投資額も大きくなります。同じ金をかけるなら既存店のリニューアルだと考えを修正し、そちらに力を注いでいるところです」

看板は回らないが外装をきれいに。するとファミリー層や女性客が

リニューアルには、内装まで変える本格的なものと、看板など外観を新屋号にするものがあり、現在急ピッチで進めているのが後者だという。低予算で変化を伝えられるからだ。

具体的には、回転看板をやめて回らないタイプのものに取り換えることと、外装をきれいにすること。それだけで、明らかに客数が増えた。しかも、いちばんきてほしいファミリー層や女性客がやってきた。

常連客にとっては愛着のある回転看板だが、逆に言えば風景に溶け込みすぎていて、目が留まらなくなっていたのではないか、と江橋さんは言う。リニューアル店では売り上げが10%以上の伸びで推移しているというから費用対効果は高い。

この数字は、屋号が変わっても、これまでの男性客が離れていないことも意味する。じつは、ここがすごい。長年積み上げてきた“山田”の信用は、屋号が変わったくらいではぐらつかなかった。常連客はロードサイドに山田があれば駐車場に吸い込まれるのが日常になっている。

ファミリー層と女性に満足してもらえるよう、新メニューの開発も進んでいる。この冬は鍋焼きうどんが大ヒット。さらに季節メニューのはまぐりうどんも大幅に予想を上回った。4月半ばからはこれまでならありえなかったヘルシーさが売りの色鮮やかな野菜メニューも登場させる計画らしい。