「オマーンルート」は実質犯で筋がいい

報酬を有価証券報告書に少なく記載した金融商品取引法違反の罪や、サウジアラビア人の知人に日産の巨額な資金を不正に支出させた特別背任の罪で逮捕起訴され、ゴーン氏は108日間にわたって身柄を拘束された後、保釈金10億円を支払って3月6日に保釈されていた。

ただ、これまでの金融商品取引法違反の罪は形式犯と批判され、特別背任の罪も含み損の問題などをともなうことから公判維持の難しさが指摘されていた。

その意味では今回の「オマーンルート」の特別背任容疑は実質犯であり、資金の流れも具体的に把握できている。捜査的に筋のいい事件だった。特捜部は捜査権の及ばない海外には捜査共助を求めて検事を派遣し、複雑な資金の流れの解明に至った。

感情的になって攻撃すれば、検察は敗北する

沙鴎一歩は11月19日の最初の逮捕直後から有価証券報告書の不実記載などいう形式犯でなく、実質犯の業務上横領や所得税法違反(脱税)、特別背任の容疑で立件すべきだ、と主張してきた。その通りになったわけだが、あえて検察にこう言いたい。

「罪を憎んで人を憎むな。感情的になってゴーン氏を攻撃すれば、検察は敗北する」

ゴーン氏の一連の事件をめぐっては、裁判所を間に挟んで捜査側と弁護側が激しく対立した結果、事件の流れが二転三転した。

昨年12月10日の金融商品取引法違反容疑での再逮捕の後の12月20日、東京地裁が東京地検特捜部の勾留延長請求を却下すると、特捜部はその翌日にサウジアラビラルートの特別背任容疑での再逮捕に踏み切った。しかし今年3月6日にはゴーン氏の弁護側の機転で保釈され、特捜部は苦汁をなめさせられた。

オマーンルートでの今回の再逮捕は、検察に軍配が上がった。だからといって裁判で判決が下されたわけではない。海外メディアからの「身柄を拘束し続けて自白を強要する人質司法」との批判の声も強い。特捜部がそうした批判に反論するには、公判でゴーン氏の私物化をきちんと立証するしかない。