では、後半戦はいつ、何が始まるのか。注目すべきは、前半戦で蓄えられたお金が100兆ドルあることだ。後半戦では、この巨額マネーがBRICsをはじめとした新興国に向かう。前半戦のような「尾が犬を振り回す」状態は影を潜め、直接投資の形を取る。新興国は従来のような“世界の工場”ではなく、膨大な人口を抱えた消費地。中産階級の消費ブームが起こり、経済成長の原動力となろう。
イギリスの経済専門誌によれば、ある国で車の免許証の取得者が1000人いるとすると、アメリカならうち900人、日本なら600人、中国なら30人が車を持っている。先進国と比べ、新興国ではそれだけの需要が見込めるということだ。
しかも昨年、中国の一世帯当たりの所得が5000ドル台に乗った。中国では所得が二極化しているが、人口13億人のうち3億~4億人はこの水準に達したと見ている。通商白書(経産省)によれば、車、冷蔵庫など耐久消費財の購入が可能な所得水準の境目が5000ドル。日本の60年代と同じことが起こりそうだ。
後半戦開始は今から5年後、あるいはもう少し先になるかもしれない。新興国の生活水準が先進国に追いつくまで約20~30年続くだろう。
もっとも、100兆ドルの7割を占める欧米資本が、前半戦に引き続き投資をリードする。前半戦の敗者である日本は、手持ちが5兆ドル程度。苦戦を強いられそうだ。
100兆ドルの持ち主は金融機関ではない。ヘッジファンド等に出資する富裕層のような“見えない投資家”たちだ。詳しい実態は不明だが、アメリカ政府や国民の大半が過剰債務を抱えて立ち上がれない半面、ウォーレン・バフェットのような少数の本当の金持ちが存在するのではないか。
彼らは国境を越えて資本を動かす。各国政府や国民とは利害が必ずしも一致しない。サブプライム問題の一側面として彼らが売り抜けた資産を入手した低所得者層が、価格下落で債務を負ったともいえる。今後は先進国・新興国に限らず、こうした1%以下の富裕層とその他90%超との二極化が進む。日本も同様だろう。
『不平等社会日本』『戦後の思想空間』『現代社会の理論』『優しい経済学』は、今の日本の社会経済を考えるのにいい。いずれもオウム事件と阪神・淡路大震災の起きた95年前後から日本が変わったとの視点で書かれている。95年に戦後が終わり、日本の近代化が終わったと断じていい。経済現象の背後にあるものの考え方も、経済と同時並行で動くことがよくわかる。