大きな公共性もなければ、個人主義もない。それが日本の現状だと思います。では我々はどう生きていけばいいのか。僕は、日本的な家制度によって抑圧されてきた個人を、いかにエンパワーするかが、これから非常に重要になると考えています。
そのために必要なのが、個人ベースでの連帯および助け合いの「文化」をつくっていくことです。日本人の多くは年齢を重ねると、「友達と遊ぶ」ことがなくなります。特に中高年男性に顕著ですが、日頃、密接に関わる人間関係が、家族と会社の同僚だけという人が日本にはたくさんいます。会社も擬似的な家の一種なのです。しかし経済関係に基づく人間関係は、取引が終わればそこで切れてしまいます。そういう「家庭と会社以外の人間関係を持たない人」こそ、それを失ったときに一気に孤立化するのです。
デヴィッド・グレーバーという経済人類学者が、現在グローバルに世界を覆う資本主義システムに代わりうる社会システムとして、新たな「アナーキズム」を提唱しています。アナーキズムは一般に「無政府主義」と訳されますが、グレーバーは政府を倒せと言っているわけではなく、これからの時代は「上に管理者がいない状況で、互いの自発的な協力関係により社会を構築することが重要になる」と主張するのです。考えてみれば、健全な状態にある会社組織にも、上下関係に囚われない同僚同士のインフォーマルな関係性が必ずあるはずです。そうした「穏当なアナーキズム」を、個人レベルで構築していく必要があると思います。