利害関係のない友達を中年以降どうつくるか

孤立化を防ぐためには、利害関係を離れた「友達」をつくることが重要です。困ったときに自分を無条件で助けてくれる「贈与」に基づく関係性です。そうした性善説に基づく個人同士の結びつきこそが、家でも公共でもない、生涯にわたって続く第三のセーフティネットとなるはずです。日本では、「最後に助けてくれるのは家族だけ」「金の切れ目が縁の切れ目」といったシニカルな考え方をするのが「大人である」と見なす風潮があります。でもそれは、「隣の家の他人は信じるな」という家制度とも密接に結びついた性悪説に基づく人間観です。誰しも子供時代は、そんな冷たい人間観を持たずに、友達と遊びながら助け合っていたはずです。缶けりに自分より幼い子が交じれば、ハンデをつけてあげて一緒に遊ぶ。そんな子供が自然に行っている「遊びと助け合いの融合」を、中年以降にどう復活させるかが孤立化を防ぐカギとなります。

「しかし、家族でも仕事関係でもない友達を、どこで、どうやったらつくれるのか」

そう悩む人もいるでしょう。僕がお勧めするのは文化と密接に関わることです。音楽や美術のような芸術活動でも、盆栽や昆虫採集のような趣味でも、ゴルフやテニスのようなスポーツでも構いません。

実際、僕には、自分がピンチになったときに助けてくれるだろうと確信できる、昔からの友人がたくさんいます。高校時代の美術部や趣味の音楽を通じて仲良くなった友人たちは各地に離れて住んでいますが、SNS上で常にやりとりを続けています。

文化を通じて友達をつくるときのポイントは、「趣味」のレベルに留まらず、もっとシリアスに、主体的に関わることです。音楽が好きなら、ただ聴くのではなく、楽器を習ってバンドを組んでみる。読書が趣味なら、自分で読書会を企画して、定期的に集まりを催す。そのように「傍観者」ではなく、「当事者」として文化に密接に関わることで、人間関係のネットワークも広がり、人生そのものが充実していくはずです。

「そうはいっても、自分には没頭できるような文化も趣味も浮かばない」

そんな方にお勧めなのが、自分の「欲望年表」を書いてみることです。生まれたときから小学校、中学校、高校、大学、現在に至るまで、自分自身を形づくってきた「欲望」が何なのか、徹底的に振り返ってみるのです。「これを勉強すれば将来食べていける」といった外部要因ではなく、自分の心の底から湧き上がってきた「欲望の歴史」に向き合ってみる。そこには必ず、これからの人生を充実して生きるヒントが隠れています。自分がどういう人間であるかを相対化して捉えられる人は、他人の生き方も認められる人です。そういう人は、孤立化することは決してないはずです。

千葉雅也(ちば・まさや)
立命館大学准教授、哲学者
1978年、栃木県生まれ。県立宇都宮高校、東京大学教養学部卒業。パリ第10大学および高等師範学校を経て、東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。仏現代哲学の研究、美術・文学・ファッションなどの批評を行う。近著に『意味がない無意味』。
(構成=大越 裕 撮影=永野一晃 写真=PIXTA)
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