55歳のシングルマザーが家賃を滞納していた。金額は30万円。女手一つで育てた3人の子どもは自立し、本人はファミレスのパートで生計を立てている。より家賃の安い家に引っ越す費用もなく、手詰まりだ。司法書士の太田垣章子氏が「子どもに相談しては」と提案すると、女性は「わたしに死ねということでしょうか」とつぶやいた――。

※本稿は、太田垣章子『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

7万円の家賃、滞納額は30万円

「まただ……」

森山玲子さん(55歳)は、ファミレスのシフト表を見て、大きなため息をつきました。

今月のシフトを見る限り、収入は10万円にも届かないはず。このままではまた家賃が払えません。滞納額は減るどころか、増えるばかりです。もっと働かせてと店長にお願いしますが、店自体の売り上げが上がらないから仕方がないとのこと。50歳を超えると、そうそう働ける場所もなくいつも頭の中はお金のことばかり計算してしまいます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/S_Kazeo)

7万円の家賃を払ったり払えなかったり、もう半年以上そんな状況が続いています。滞納額は、すでに30万円。もっと安い部屋に引っ越ししたくても、初期費用と引っ越し費用が払えません。とはいえ、このままでは滞納額が毎月どんどん増える一方であることは目に見えていました。

 

3人の子どもを見ると自分自身が情けなくなる

玲子さんは、シングルマザー。3人の子どもを女手一つで育ててきました。子どもたちは皆成人し、今はそれぞれの生活を営んでいます。

いちばん上の長男は高校卒業後、就職。引っ越し業者で働いています。すでに結婚していて夫婦共働き。働き者の奥さんで、助かっているようです。長女は奨学金で看護学校に進み、小さな頃から憧れていた看護師になりました。仕事上、不規則な生活を送っているようです。しばらく連絡がありませんが、きっと忙しいのでしょう。次女も非正規雇用ながら、働いています。収入は低いみたいだけど、ひとり暮らしを彼女なりに満喫している様子です。

苦労して育てた子どもたちが道を踏み外すことなくきちんと自立し、それぞれ頑張っていることは本当に嬉しい。けれどもその分、自分自身の現状がもどかしくて、情けなくて、どうしようもなく絶望的な気分になってしまうのです。