「安全」と「スカンジナビア」という2つのイメージ

――どのように変えたのですか。

【木村】ボルボのブランドイメージって何だろうか、と考えました。「安全」と「スカンジナビア」という2つのイメージです。ボルボは昔から安全を重視し、3点式シートベルトを標準装備したのは世界最初です。頑丈でぶつかっても壊れないイメージもあります。それなのに安全を強くは訴求していなかった。

一方、デザインはドイツ車とは違い、明るい色使いやシンプルさ、優しさを取り込むスカンジナビアの特徴を持っています。この二つをとにかくアピールをすることに集中しました。その後もずっと安全とスカンジナビアを言い続け、軸はぶれていません。

先進安全・運転支援機能のひとつ「City Safety対向車対応機能」のイメージ。自車線に対向車が進入し、衝突が避けられない場合に、ブレーキで被害を軽減する。(写真提供=ボルボ)

――安全とスカンジナビアという2点ならこれまでの外国人社長も気がつきそうですが。

【木村】外国人だから分からないのです。スウェーデン人だからスウェーデンの良さが分からなかったのだと思います。日本人も日本の良さを外国に駐在して、的確にアピールできるかというとそうでもない。自分たちの良さ、アピール点は他人の方がよくわかるものです。

それと外国人社長は3年でころころ変わりますから一つの戦略を長期的に続けるということが難しい。短期的に業績を上げたがる傾向もあります。それが日本人の私にはありませんでした。

安全をアピールしなければいけないのに、14年当時は自動ブレーキなどの先進的な安全装置の一部がオプションでした。それを全車種で標準装備にしました。プレミアムブランドのボルボなのに、しかも安全を最優先しているのに、オプションというのはおかしい。

5年前に317万円だった平均購入価格は530万円に

なぜオプションになっていたかというと、標準装備にすると「販売価格は300万円を越えますよ」という理由です。安売りを訴求するというバカげた戦略をそれまでは取っていたのです。安全装備をすべて標準装備にしているのは世界中のボルボで日本だけです。スウェーデン人も自分たちの強みが分かっていないのかもしれません。

5年前に317万円だった平均購入価格は昨年、530万円になりました。日本の上質な消費者は100円ショップにも行きますが、安いものだけでなく自分が気に入ったモノなら高額な商品も購入するという2面性を持っています。安くすれば売れるわけではありません。