「白いスニーカー」から生み出した世界
「ミニチュアの神」とも呼ばれる田中がこの日、手に取ったのは白いスニーカー。これを雪山に見立て、雪化粧した木々やソリで遊ぶ子供を配し、楽しい世界観を生み出そうとした。
だが完成して写真撮影に臨むと、手が止まった。別のアイデアが浮かんだからだ。スニーカーの縫い目は、よく見てみると雪山に残る何かの「足跡」に見えないだろうか。
最終的には、縫い目を「鹿の足跡」に見立てた。ふもとのハンターがその姿を探して躍起になっているという“見立て”だ。タイトルは「獲物は一足先を行っている」。全部でほぼ2時間の工程だった。
後日、田中は浮かない顔をしていた。
【田中】「良いとこ見せられたと思ったら“いいね!”の数が全然少なくて……(笑)」
「いいね」が4万8000件というのは本人の感覚としては低評価なのだそうだ。「考えすぎて、作りこみ過ぎると伝わらない」と語る。
【田中】「(僕の作品は)分かってもらえないと成立しないアート。誰もわからなくて良いというのは絶対ありえない」
ちなみにこれまでで最も「いいね!」が多かったのは28万件。SNSへの投稿は「分かりますか?」の確認作業でもあるという。
夕方からは「子供たちとの時間」
子供時代から鉄道模型やレゴが大好きだった田中は大学で美術を学び、地元のデザイン会社に就職。サラリーマン時代に趣味でジオラマ人形を使った作品のSNS投稿を始め、のちにミニチュア写真家として独立した。当時まだ結婚したばかりだったが新妻は快く「いいね!」と言ってくれた。
現在は、幼い男の子2人の父親だ。出張の日以外は、夕方から子供たちが眠るまでの時間は仕事を入れず、子供たちの相手をすることに決めている。田中の自由な発想は、子供との遊びの中から生まれているのかもしれない。