なぜ中国人は「キットカット 抹茶」を買っていくのか

多くの人が当たり前だと思っていることを否定して考える力が身につくと、独自の戦略で戦えるようになります。ネスレ日本に当てはめると、ホームページやYouTube上でショートフィルムを公開する「ネスレシアター」がひとつの事例になるでしょう。

私は、10年以上前から、テレビの時代が終わり、テレビCMの効果が薄くなることを予測していました。実際、今ではテレビ番組は録画してCMをスキップするのが普通になっており、かつてのようにテレビCMに大金を出す理由がありません。

一方で、映像を携帯端末で見る時代が来ることも予測していたため、ショートムービーを作ってテレビCMの代わりにすることを考えたのです。ネスレシアターでは、岩井俊二監督や本広克行監督など実力ある方々の作品を公開しており、そこにはネスレ日本が伝えたいメッセージも込められています。

ネスレシアターの作品のなかには、英語や中国語などに翻訳したものもあります。これの宣伝効果は海外にもおよんでいるようです。実は今国内でキットカットが一番売れている小売店はドン・キホーテであり、とくに中国の人から「キットカット 抹茶」が人気を集めています。

ブームはたまたま起きたことではない

2018年の10月には、永田琴監督に制作していただいたショートムービー(「What is REAL?」)をネスレシアターで無料公開しました。永田監督は、かつて岩井俊二監督の助手を務めていた方なのですが、その後自らが監督として手がけたショートムービーが中国をはじめとするアジアで大きな人気を集めています。

今回公開したショートムービーの主人公は台湾の青年で、言葉も中国語。ストーリーは、この青年が不思議な男性との出会いを通じて、大切な人と共に過ごす上での教訓を学ぶというファンタジードラマです。劇中ではキットカットをさりげなく小道具として使っています。

ネスレシアターの公開開始は2013年のことですが、以来、ショートムービーという独自の方法でキットカットの価値を伝えてきました。今中国でキットカットが売れているのは、こうした地道な試みを続けてきたからに他なりません。このブームはたまたま起きているわけではないのです。

このように、既存の方法とは異なるやり方で競争力をつけるには、物事の本質を考えるセンスメイキングが大切です。日本の将来のためには、こうした力を持つ世界基準のイノベーション人材が絶対不可欠と私は考えています。

高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本社長
1983年、神戸大学経営学部を卒業後、ネスレ日本入社。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長に就任。10年、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月からネスレ日本社長兼CEO。
(構成=小林義崇 撮影=原貴彦)
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