「ネットが社会を分断している」といわれる。ひとつの仮説は、ネットでは自分と似た意見ばかりに接したがる「選択的接触」が起こりやすいというものだ。だが、最新の研究結果でそれはウソだとわかってきた。10万人規模で論客27人のツイッターのフォロー関係を分析した結果を紹介しよう——。
※本稿は、田中辰雄・浜屋敏『ネットは社会を分断しない』(角川新書)の一部を再編集したものです。
ネット情報の「選択的接触」はリアルより強いか
選択的接触は人間なら誰でもある程度は起こりうることである。わざわざ自分と異なる意見ばかりと接したがるのは、へそ曲がりか特別に戦闘的な人であり、普通の人は自分と似た意見の人のまわりに集まろうとする。それはリアルでもネットでも変わらない。
言い換えると選択的接触はネットだけでなく、リアルでも起こりうる。すなわち選択的接触は、新聞やテレビ番組の選択あるいは友人の選択でも起こりうる。リベラルの人は朝日新聞を読むのが大勢であり、わざわざ産経新聞を読もうとする人は少ない。
したがって、問題なのはネットでの選択的接触が、リアルよりも強いかどうかである。例えばいくつかの実証的研究(*1、*2)は、確かにネットでの行動が選択的であることを示しているが、その程度がリアル世界よりも大きいかどうかまでは示されていない。選択的接触は程度問題なのであり、有るか無いかではなく、その度合いまで測る必要がある。そして、ネットでの選択的接触の度合いまで踏み込んだ実証はそれほど多くは無い。本稿ではこれを試みよう。
あらかじめ結論を述べておくと、ソーシャルメディアでの選択的接触は実は強くない。調べてみるとツイッターとフェイスブックで接する論客の4割程度は自分と反対意見の人であり、決して自分と同じ意見の人ばかりではない。接する論客の9割以上が同じ意見の人という偏った人は1割程度しかいない。