何を学ぶか、問われる失敗の質

また、「商売は失敗がつきものだ。十回新しいことを始めれば九回は失敗する」と柳井さんは指摘しながら、一貫して「チャレンジ」の重要性を説いていらっしゃいます。そして、その失敗も「いい失敗」と「悪い失敗」に分かれ、前者は「失敗した原因がはっきりわかっていて、この次はそういう失敗をしないように手を打てば成功につながるというもの。『失敗の質』が大事だ」と柳井さんはいいます。

大企業病に罹った社員は、往々にして失敗を恐れるもの。そうではなく、果敢に新しいことにチャレンジし、10回に1回でもいいから成果を手にしてほしいのです。その一方で失敗から多くのことを学び、次のチャレンジに活かしてほしい。柳井さんと同じように、私も社員を鼓舞し続けていきます。

最後に私の読書体験を紹介いたします。正直に申し上げますと、かつて私はあまり読書をしない人間でした。大学卒業後に松下電器産業(現パナソニック)に入り、エンジニア一筋に歩んでいました。技術に関係ない本はいっさい役立たないという極端な考え方を持っていました。転機となったのは、1991年に米ハーバード大学経営大学院(MBA)への留学です。そこで幅広く本を読む重要性を知りました。

本来は自分自身が実体験するのが理想ですが、限界があります。読書はそれを補完してくれます。経営者の修羅場を疑似体験できる。頭でっかちになってはいけませんが、非常に役立ちます。柳井さんはもちろん、松下幸之助ら功成り名を遂げた経営者の本から学ぶことが数多くあります。

調査概要●2009年から2018年までのプレジデント誌で実施した読者調査(計5000人)に、今回新たに弊誌定期購読者、「プレジデントオンライン」メルマガ会員を対象にした調査(計5000人)を合算し、「読者1万人調査」とした。ランキングのポイント加算にあたっては、読者の1票を1ポイント、経営者・識者の1票は30ポイントとした。経営者・識者ポイントは、弊誌で過去に取材した経営者、識者の「座右の書・おすすめ本」と、今回取材先に実施したアンケートによるもの。続編やシリーズに分散した票は合算(例えば、『ビジョナリー カンパニー』に10票、『ビジョナリー カンパニー2』に20票入った場合は、『ビジョナリー カンパニー』に30票とした)。また、同一著者(例えば、稲盛和夫氏、司馬遼太郎氏、百田尚樹氏)による本は票数の多い書籍を「ランキング入り」としている。結果として、時代の流行などに左右されない良書が多数ランクインできたもようだ。

樋口泰行(ひぐち・やすゆき)
パナソニック 代表取締役専務執行役員
コネクティッドソリューションズ社社長。1980年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。その後ダイエーなどを経て、2017年4月パナソニック専務役員、コネクティッドソリューションズ社社長に。同年6月からパナソニック代表取締役専務執行役員。
(構成=田之上 信 撮影=石橋素幸)
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