部分最適でなく、全体最適を目指せ
そうした大企業病から抜け出すために大きなヒントになるのが、社員の間に安定志向のような気持ちが広がっていたことに対して危機感を募らせた柳井さんが唱えた「第二の創業」です。柳井さんは「悪い意味での大企業とは、つまり意思決定が遅く環境に対応できずにもがいている、図体(ずうたい)の大きいだけの企業である。ここから脱却するには、創業時の原点に戻って再びベンチャー企業からやり直す必要がある」と強く訴えます。
もちろん、当社が創業時の原点に戻ってベンチャー企業からやり直すというのは難しいことですが、社員や組織の意識を変えていくことは十分に可能です。その点に関して柳井さんは「すべての人たちが、一人ずつ“自営業者”としてその会社にコミットする。そういう組織を目指すべきだと思う」と指摘しています。
そして、それには経営者が何を考え、何を実行しているのかをオープンにすることが必要であるし、「開かれた活力ある会社にトップダウンのみの一方通行はありえない」とも述べます。これには私も強く同感し、経営の透明性を高めたうえで、社員とコミュニケーションするように努めております。
しかし、ここで注意しなければならないのは、一人ひとりの社員が「部分最適」に陥らないことです。常に「全体最適」を考えながら仕事をすることが何よりも大切です。柳井さんは「常時同期化」という言葉を使い、「全員が組織全体の目標を共有化していて、しかも自立しながら仕事をしないと成長しない」とアドバイスします。
そのうえで柳井さんが大切にしているのが「23条の経営理念」なのだそうです。第1条「顧客の要望に応え、顧客を創造する経営」、第2条「良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営」……。そうした経営理念の存在意義について柳井さんは、「自分は何のために会社で仕事をしているのかという原点を忘れてしまう。そうならないためにも明確な理念が必要なのだ」と述べていて、先ほどの第二の創業の考えに通じることがわかります。