2017年の米軍増派は、和平合意交渉に引き出すためにも、一時的であればタリバン側に軍事的な打撃を与えることが必要だという見込みにもとづいてなされた。しかしそのもくろみは失敗した。タリバン側の勢力は、衰えるどころか、むしろ拡大した。

ISIS-K(イスラム国ホラサン)の台頭によって勢力を減退させたタリバンが、一気にその勢力を復活させたのは、ISIS-Kの伸長を恐れたロシアやイランがタリバン支援に動いたからでもある。アフガニスタンにおけるアメリカの影響力の減退は、またしてもロシアやイランに好都合な状況を作り出す。

7000人の規模に戻した場合、米軍に行うことができるのは、せいぜい無人機などを使った限定的な航空戦力の提供と、政府軍支援くらいだろう。ガニ政権は、カブール及びその他の幾つかの主要都市の防衛に専心せざるをえず、アフガニスタン情勢の劇的な展開は見通せない。

しかし、そうだとしても、1年以上にわたって増派の効果を見極めたうえで、最低限の規模に戻すというトランプ大統領の判断は、必ずしも破綻したものとは言えない。単に現実を見据えた対応であるにすぎない、とも言える。

やはりマティス路線とトランプ路線の対立は、「対テロ戦争」を遂行するにあたっての姿勢の問題であり、どちらかが正しく、どちらかが間違っている、というほどのものではない。

アメリカの介入主義の終わり

マティス長官の退任は、トランプ政権内部の最も介入主義的な部分の減退を意味する。今後の外交政策に大きな影響を及ぼすだろう。

ただしだからといってトランプ大統領が「対テロ戦争」から全面的に撤退するわけではないだろう。いわゆる「孤立主義」の純粋な形に進もうとしているわけでもない。

マティス長官は、「対テロ戦争」におけるアメリカの勝利を目指し続けていた。テロリスト勢力の完全な駆逐を目指し続けていた。トランプ大統領は、そのようなものは目指していない。アメリカ本土への攻撃を行う余裕を与えない程度に、テロリスト勢力の伸長を警戒するが、それ以上の目標を掲げて政策を遂行することはしない。

今後は、中国への警戒心を露わにした演説を行ったマイク・ペンス副大統領の影響力が一層高まると思われる。中国とにらみ合い続けるための外交政策に、より多くの資源が投入されるということだ。アメリカとともにインド太平洋戦略を掲げて中国をけん制する日本にとっては、より構造的な課題を見据えた外交が求められてくる。

今後もアメリカは、「対テロ戦争」は続行する。ただしアメリカは、それを介入主義的ではないやり方で、もはや勝利を目指さないまま、続行することになるだろう。

篠田英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保』(風行社)、『ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。
(写真=AFP/時事通信フォト)
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