マティスをアメリカ中央軍(CENTCOM)司令官に指名したのはオバマ大統領だが、イラン核合意に反対したマティスは、オバマ政権から疎まれ、解任された。こうした経緯から、マティスは、オバマ政権に批判的な保守強硬派の英雄のような存在になり、トランプ大統領も目をつけるようになった。
強硬な対テロ戦争の遂行者としてのマティスの信条は、トランプ大統領の政治姿勢と必ずしも矛盾はしない。トランプ大統領も、国防の重要性を掲げている。オバマ政権のイランへの融和的な姿勢には批判的であり、テロ対策では強硬路線を標榜している。
しかし「対テロ戦争」を半ば文明論的に捉える発言歴があるマティスに対して、トランプ大統領はもっと実利的だ。大統領は、アメリカ本土の安全を最優先しつつ、効率的なやり方で安全保障政策を遂行することが合理的だと確信している。
そのことが、対シリア政策と対アフガニスタン政策で明らかになった。マティス辞任の決定的要因となったのは、トランプ大統領がシリアからの米軍の撤退を決めたこと、そしてアフガニスタンの米軍の大規模削減を決めたことだという。
結局のところ、マティス長官とトランプ大統領との間の対立は、「対テロ戦争」をどのように遂行していくのか、という路線対立の問題であった。マティス長官は、いわば積極介入主義を標榜していたが、トランプ大統領はそうではなかった。大統領は、「対テロ戦争」を継続するつもりではあっても、より少ないアメリカの負担でそうしたい、と強く願っている。
就任から2年間、ともに「対テロ戦争」を戦い抜く立場からマティス長官を重用し続けたトランプ大統領だったが、これから次の大統領選挙に向かってより自分らしい成果を作りたい段階に入り、マティス長官の意見に耳を傾ける動機が薄れてきた。介入主義的な部分の外交政策を修正する段階に入った。そこで両者が協働することが、決定的に困難になった。
目下のシリア情勢と米軍撤退の意味
2000人という限定的な関与であっても、シリアにおける米軍の存在は、軍事的にも政治的にも大きな意味があった。その一方で、果たして2000人の米軍を置き続けることが、合理的かどうかは、疑問の余地があった。
撤退の支持者は、イスラム国(ISIS)を組織的に壊滅させたことにより、米軍をシリアに駐留させる目的は達せられた、継続維持の必要性はない、と考える。
これに対して撤退の批判者は、ISIS系の勢力は残存している、と主張する。そして、アサド政権とその後ろ盾のロシアの影響力の拡大、さらにはイランの影響力の拡大を許してはならない、と考える。